インタビュー

INTERVIEW(2)――音楽の輪廻に真っ向からぶつかって



音楽の輪廻に真っ向からぶつかって



ジャンク フジヤマ



――軽やかさに欠けると(笑)。カップリングに収められた名曲“魅惑の唇”のスタジオ・ヴァージョンは、なんと井上鑑がアレンジほかで参加しているという。これまたゴージャスな仕上がりとなりましたね。

「そうなんです。今回は今(剛)さんも呼びましたし、彼らと仕事をするのが、ひとつの夢でもあって。ずっと長いこと、今さんのギターといっしょにやってみたいと呪文のように唱えていたら、現実になったわけです」

――まさに、プラネタリウムに広がる星空のような綺麗なサウンドが広がってます。レコーディングは、どのように進んでいったんですか?

「あのすごいメンバーが一堂に会し、まるで同窓会のような雰囲気でしたね。〈今ちゃん、久しぶり!〉みたいな会話が聞かれて。歌入れは後日にやったんですが、オケは全部せーので録りました。今さんが、〈ギターの歪みに種類があるんだ〉と、こだわってらっしゃったところがさすがでしたね。皆さん、音作りに時間をかけてらっしゃって、個々の音作りに1時間、2時間みたいな。特にPONTA(村上“ポンタ”秀一)さんは強いこだわりがあるので、他の方より早く入っていただいてね」

――ジャンク フジヤマは、若い世代では珍しいとも言えるタイプのポップ・ミュージックを作る男。それだけに、参加された皆さんは、こういうタイプの曲を世に出す喜びがあるのではないかと勝手に想像していました。

「先輩たちが信じる良い音楽を、いま20代のミュージシャンが欲している。そのことは先輩たちに好意的に受け入れられていますよね(笑)」

――頼もしいぞ!と。

「やりたいことをやればいいんだ!って言ってもらえますね。巷からいろんな声が聞こえてきますが、1回いっしょにやった諸先輩方は、応援する気になってくれる。いいんだよ、世代なんか関係ねえんだよ!ってね」

――でも、いろんなインタヴューを読ませてもらうと、やっぱり同世代に伝えたいって意識が強いんだなと感じましたが。

「そうですね。やっている内容からすると、ストレートに届くかどうかって難しいところがあるんですけども、娯楽の1ツールとして音楽とはこれほどの力を持っているんだってことをしっかりと伝えたい。人生の一部分をこの音楽に割いていただいてもいいんじゃないかと提案したいんです。例えばライヴなんかで、オールスタンディングで騒いで帰るって楽しみ方もあるでしょうが、静かに椅子に座り、1曲終わるごとに拍手する。もちろん踊りたくなれば立ち上がって踊ればいい、同世代にもそういう音楽の楽しみを体感していただきたいと思っていますね。別にね、聴いている人全員がミュージシャンになるわけでもないし、絶対に70年代を聴かなくっちゃダメだ!とか言っているわけじゃないんです。ただ絶対に聴いて損するタイプの音楽じゃないと思うんですよ。ここを入り口としてブラック・ミュージックを好きになるとか、よりいっそう音楽の深みが味わえるようになるし。僕だって、そうだった。最初、ブラック・ミュージックは濃すぎると思ったけど、諸先輩方が作ってきたようないわゆる〈和製洋楽のサウンド〉を聴きながら辿っていったことで聴けるようになったから」



ジャンク フジヤマ



――まぁ、ジャンク フジヤマの曲は、ルーツがどこにあるかを一生懸命に探らなくとも素直に楽しめる音楽だと思うし、うんちく抜きに楽しんでほしいという気持ちが音から伝わってきますよ。それと、諸先輩方が好意的に思うのも、この男は自分が何がやりたいのかを把握できている、とわかっているからじゃないですかね。

「そうですかね」

――ご自身は、良きジャパニーズ・ポップスの担い手でありたいっていう意識など持ってらっしゃる?

「以前から、渡されたバトンを繋いでいくんだ、というようなことを言ってきましたが、ただ歴史を踏襲するだけではなく、まずは自分を確立することが大事だと思うようになって。自分がやりたいことはこういうことで、何を言われてもこれでいくんだというような、軸というかブレない意識こそ大事。それがあってこそ、継承者に相応しい存在になれる。まぁ、その使命があるのかどうか知りませんけども、そういうことを言っていただけるのであれば、喜んで受け入れさせていただきます、と。PONTAさんは、〈俺らが若い頃にやっていた音楽に影響を受けた若い世代のミュージシャンが出てきたりするのを見ると、音楽は輪廻しているのがわかる〉っておっしゃっていた。そのループから逃げ出すというか迂回していくような人もいれば、真っ向からぶつかるような僕みたいな人もいる。要するに、PONTAさんの時代の音楽ってものすごくって、簡単に太刀打ちできるようなものじゃないというか」

――越えるべき山としてはかなりの高さですよね。

「何がすごいって、ダビングなしでああいう音楽を一発でやっちゃうことで、パッとやって、ハイ終わりっていう。そういう人たちですから。僕らは生まれたときからMTRのようなものがあって、長所をつまみながら音が作れた。要するに、僕らの時代は土台をきちんと固めることができない人間が増えたんです。とにかく助けてくれる道具がいっぱいありましたからね。だから、僕の周りでも物持ちがやたらと多いわけですよ。それが、僕なんかギター2本だけですもん。専門家じゃないんで、エフェクターとかまったく使わないんです。アンプに挿して、潔くクリーン・トーンで弾く。物はたくさんあるけど、そこからいったい何を作り出したいのかわからないって人が多いんじゃないですかね? 例えば、昔の坂本龍一さんみたいに、2、3時間かけて自分の求めている音を作り出すようなことはないですから。そういう時代を経て、現在の便利なものを使うのならわかるんですが、やっぱり初めからあるものだけに頼っていたら細かいスキルは伸びませんよね。だからそこを伸ばすために、古い音楽を聴かなければいけないと思うんです。ミュージシャンをやるならね」

――だんだん年上の方の講義を受けているような気になってきたな。

「アハハ! でもバンドをやってた大学の頃からそう思ってましたよ。クリックなんかには頼らない。身体で刻んだリズムならば、多少ずれていてもその揺れが気持ち良いんだというふうになっていった。井上鑑さんがライヴに来てくれたとき、〈(BPMが)92で始まって、95とか89で終わったりする演奏を久しぶりに観た〉って。それが良いんだと。音楽してるよね、っておっしゃってくれた。みんなが呼吸を合わせることで、演奏が遅くなったり速くなったりを繰り返す。昔のライヴ盤を聴いたりして真似しようとしても、音が一定じゃなかったりするから無理だったりしますよね。やっぱり、その呼吸まで真似できないから。そこが美味しいんですよね」


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掲載: 2013年01月23日 18:01

更新: 2013年01月23日 18:01

インタヴュー・文/桑原シロー