INTERVIEW(3)――普遍性と独創性を兼ね備えたポップス
普遍性と独創性を兼ね備えたポップス
――味覚を共有できる仲間は大事ですよね。さて、このニュー・シングルには鈴木茂の“砂の女”とニール・セダカの“Laughter In The Rain”のカヴァーも入ってますね。
「“Laughter In The Rain”はアメリカン・ポップスの黄金期のサウンドというか、70年代音楽のエッセンスが詰まっている。メロディーもいいし、構成もバッチリだし、最高ですね。いろんなカヴァーがあるけど、ニール・セダカのヴァージョンを超えるものはないかな。ファルセットと地声の中間のような歌い方が気持ち良くて。ああいう歌い方をする日本人ってなかなかいませんから、この曲をやり続けていれば僕も体得できるのかなと」
――かつてははっぴいえんどの“さよなら通り3番地”をカヴァーされてたけど、あれも鈴木茂メロディーでした。
「茂さんは好きですよ。はっぴいえんどのなかでも、細野晴臣さんと茂さんが大好きで。僕もギターで曲を作るので、すごく気持ちがわかるんですよね。あのキーが安定しない感じ。要するに自分のキーで作れないんですよね。鍵盤と違って、ギターの場合はヴォイシングとか決まってますから。“砂の女”って、サビがどこにあるのかわからないような不思議な楽曲だけど、あのAのメロディーがすべてですよね。これも最高です」
――ちなみに、影響を受けたメロディーメイカーを挙げてもらえますか?
「歌のスタイルとかやっている音楽のタイプから、よく山下達郎さんと比較されますが、彼のメロディーを参考にしたってことはほとんどなくて。ジェイムズ・テイラーやニール・セダカが作るような美しいメロディーが好きで、実際に表面に出ているかどうかは別として、気持ちとしては彼らのような曲が書きたいと思っているんです。それと同様に、ダニー・ハサウェイのようなソウル・ミュージックも好きですし、2コードしかないファンクも好きなんですけどね。そういったものをベースに、玄人受けするだけではなく、初心者でも楽しめるようなポップな楽曲を書きたい。これをいうと、必ず〈いちばん難しいところですね〉って言われる(笑)。普遍性と独創性を兼ね備えたもの。そこに近付けるようにいろいろとやっていますけどね」
――確かに欲張りだ(笑)。ま、こんな豪華な面々が揃っていることからも、充分に欲張りな性格は伝わってきますけどね。で、今後届くであろうアルバムもそんな欲張りな感じの作品が出来上がってくるだろうとものすごく期待してます。
「アハハ。音楽を作るにはコミュニケーションが大事なわけで、他者とのせめぎ合いが楽しい。限られた時間のなかで、あのすごい面子と向き合って作る。そのためにはヴィジョンがきちんと固まっていなければならないし、わがままばかりも言っていられない(笑)。でも、やっぱり人のなかで作らないと、人に伝わる音楽ができないんじゃないかと思うんですよね。打ち込みで作ったものばかり聴いていると、聴く側の耳がどんどん退化していって、生音かどうかもわからなくなる。そうなると、音楽の楽しみ方の2/3ぐらい奪われちゃう気がする。やっぱりね、人間がぶつかり合うと、こんだけすごいんだぞ!ってことを音楽で伝えたいんですよ」
――うん。それに勝るメッセージはないですもんね。
「そう。この箇所はBPM90だけど、終わりは87。その気持ち良さがわかるか!?ってね(笑)」