INTERVIEW(3)――〈人に届けたい〉という気持ちが伝わる作品
〈人に届けたい〉という気持ちが伝わる作品
――アルバムのラストには“世界を笑うな”という曲が入っていますが、先ほど話が出た踊ってばかりの国には“世界が見たい”という曲もありますよね。
「この曲も『FAIRYTALE』の頃から断片はあって、ようやく出せた曲ですね。下津はこの曲を聴いて〈俺の曲やんな?〉って言ってきたから、やんわりと〈そうだよ〉って言っときましたけど(笑)」
――この曲はビートルズ愛に溢れた8分半のナンバーで、まさに名曲だと思います。
「ホントはこれがリードになれば嬉しいんですけど、いまの世の中だとなかなか難しいでしょうね。コールドプレイがこれ作ったらリードになるんだろうけど(笑)」
――UKプロジェクトから作品を発表するにあたって、そういった部分での折り合いは付いてるんですか?
「自分の〈人に届けたい〉って気持ちが伝わる作品を作ることができたので、あとはいちばん最初におとぎ話を愛してくれた北島さんがやりたいように、リード曲も好きなように決めてくれていいと思ってます。まあ、あまりによくわかんないこと言われたら〈それはどうなんすか?〉って言うと思うけど(笑)。インディペンデントでやってるバンドなんで、もしこの曲(“世界を笑うな”)でPVを作りたいと思ったら、自分で作ればいいわけだし」
――アーティスト自身が発信する場がいくらでもある時代ですもんね。
「そう、ホントにたくさんあるから、とにかく発信して、それがおもしろいものだったり野心的なものであれば、必ず誰か発見してくれると思うんですよね」
――『THE WORLD』というタイトルも、“世界を笑うな”から導き出されたものだと言えますか?
「わかりやすい言葉がいいなっていうのと、最後の“世界を笑うな”と、最初の“OTOGIVANASHI WILL NEVER DIE!!!!!!!!”の2曲のことを考えたときに、すごく象徴的な言葉だと思って。ライヴハウスはすごい狭い場所ですけど、ライヴをやってると〈この空間がいちばん宇宙に繋がってる場所かもしれない〉って思えるんです。小さいかもしれないけど、この世界だけは誰にも邪魔されたくないと思ったときに、この言葉が出てきて。レコーディングした場所もすごく狭かったんですけど、でもそこも小さいのに大きな世界に通じてると思ったし、いいタイトルだなって。あと言ってしまえば、自分の心がいちばんちっちゃくていちばん広い世界だと思うんで、そういうことも込めましたね」
――ひとつ思ったのが、いまのUKプロジェクトとサブ・ポップって、ちょっと似てるんじゃないかってことだったんですね。サブ・ポップはかつてニルヴァーナを輩出して、最近はフリート・フォクシーズやシンズでふたたび盛り上がってるじゃないですか。UK プロジェクトも同様に長い歴史のなかで良質なロック・バンドを輩出してきて、いままたいいバンドがたくさん集まってきてるなって思うんです。
「シンズみたいな感じっていうのはちょっと意識してましたね。あの人(シンズのフロントマン、ジェイムス・マーサー)なんかはもう40過ぎてるけど、そういう人がもう1回シーンに飛び込んで、すごくいい作品を作るっていうのは、個人的にすごく音楽の未来を感じたんです。ああいうことが日本でも起きたらおもしろい……まあ、起きるとは思えないですけど(笑)、でもいい作品はちゃんと残ると思うんで」
――チャート云々とは別に、ちゃんと〈残る〉作品にはなるでしょう。
「アメリカだとヴァイナルがすごい出てたりするじゃないですか? やっぱりホントにロックンロールが好きな人たちは間違えてないなっていうか、そこをちゃんと盛り上げていったのが〈ピッチフォーク〉だったりするわけじゃないですか。お金とか関係ないところで、きちんといい作品を盛り上げるっていう。音楽業界の末端の人たちからそういうことが起こったら、日本の音楽事情もおもしろく変わっていくと思います」
――〈音楽業界が厳しい〉という話も言い尽くされた感はありますけど、やっぱりピンチはチャンスですよね。
「音楽業界は全部ダサくなってるんで、それは間違いなくチャンスだと思いますよ。10年前ぐらいのアメリカのシーンも、超ダサかったじゃないですか? でも、そういうときこそがチャンスで、〈ピッチフォーク〉もブログみたいな感じで始まったんだと思いますけど、それがいまや世界的なメディアとして機能している。音楽を金儲けの道具にしてる大人は、〈CD売れないし、もう終わりだよね〉とか簡単に言うんでしょうけど、音楽を愛している若者はまだまだいるので、僕は日本の音楽の未来を信じています」