インタビュー

LONG REVIEW――おとぎ話『THE WORLD』



バンドの新章を示すアルバム



Otogibanashi_J170

なんて衒いのないバンドなんだろうか。彼らはありったけの情熱をもって、人生と世界を肯定しようとしている。その方法はたったひとつ、音楽に乗せて愛を歌うだけ。その愛は恋人へ、音楽へ、世界へ、惜しみなく捧げられる。彼らの世界観はピュアな理想主義者にも映るが、決して能天気なだけではない。時にシニカルな表現を通して複雑で不安定な社会を見つめ、現状への強烈なカウンターにもなりうるのだ。そしてちょっとクセのある歌い回しで、牧歌的なメロディーを歌うヴォーカルのカッコ付けない人間臭さが、その詞に独特の説得力を持たせている。

サウンド面ではこれまでと同様、随所にビートルズの面影を感じさせるロックンロールに、グランジやオルタナ、フォーク・ロックなどの要素が採り入れられている。曽我部恵一が助力した近作のネイキッドな手触りを保ちつつ、パイプ・オルガンやストリングスの音色を用いた“NO SOS”や、ブルージーなジャムを展開する8分超の大曲“世界を笑うな”、はたまた巷を騒がせるアイドル・グループのBiSよりテラシマユフを招いた“BlS”など、新味も多い。

そして〈おとぎ話の結末がハッピーエンドとは限らない〉と歌う“OTOGIVANASHI WILL NEVER DIE!!!!!!!!"、2009年に発表した“GALAXY”の新録や、前々作の表題を冠したドリーム・ポップ“HOKORI”があるなど、バンドの集大成的な趣もある。本作から、おとぎ話は新たな章へと進むのだろう。彼らの〈おとぎ話〉は、まだまだ続いていく。



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掲載: 2013年01月16日 18:00

更新: 2013年01月16日 18:00

文/鬼頭隆生