インタビュー

LONG REVIEW――sleepy.ab『neuron』



誰でも脳内に宇宙を抱えている



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ドラマー・津波秀樹の脱退は、もしかしたらこのバンドの音楽性を根底から変えることになるかもしれない。津波脱退後初のオリジナル・アルバムとなる、この2年ぶりの新作を再生する前にふとそんなことを予想してみた。彼ら自身ここ1~2作、次なる方向を見い出せず、迷いを見せていたようだったこともあり、ドラマーが抜けたこのタイミングで新たなフェーズへとシフトするのではないか?と。

そして届けられたこの作品は、シフトするどころか、もしかするとこのバンドの持ち味にこれまでになくフォーカスされていると言っていいかもしれない。アルバム・タイトルの『neuron』とは〈脳内宇宙〉という意味。メロディックな曲調のなかにもアブストラクトなアレンジを試みる彼らの本質を表現したような表題だが、実際にノイズのパルス音を含んだオープニングの“prologue”から、エレクトロニクスが宇宙の神秘を伝えるかのようなラストの“story book”まで、全編を通じて宇宙を彷徨っているかのようなオブスキュアなタッチとなっている。

それはさながら14本(曲)の3D短編映画を集めたような大作だが、1曲1曲はこれまでになく粒立ちしていてキャッチーなのも興味深いところ。とりわけ、“ハーメルン”“undo”“darkness”とった中盤の、流麗なメロディーラインを軸に作られた曲の美しさたるや、『Pablo Honey』の頃のレディオヘッドや、『( )』あたりのシガー・ロスを思い出すほどで、声の緩急を自在に操りながら心の機微を捉えていくような成山剛のヴォーカルがダイナミズムを携えた演奏を引っ張りながら、そうした〈濃淡ある宇宙の美〉的な世界を見事に描いているのには驚かされる。

誰でも脳内に宇宙を抱えている、と話した哲学者がいたが、あるいはsleepy.abがこのアルバムで伝えたかったのは、ミクロとマクロが背中合わせであるということなのかもしれない。



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掲載: 2013年01月30日 17:59

更新: 2013年01月30日 17:59

文/岡村詩野