インタビュー

LOVE PSYCHEDELICO 『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』



どんな状況にあってもそこに美しい世界を探すことはできる──〈3.11〉を経て2人が選んだ道は、やはり〈音楽を作ること〉。紆余曲折の果てに完成したのは、自身の哲学に忠実で、肯定や希望に満ちたロック・アルバムだ!



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ブレてるうちは音楽を鳴らせない

3年3か月ぶりとなるオリジナル・アルバムだ。その間には東日本大震災があって、人々の考え方/価値観/生き方が変わり、多くのアーティストはそのことを何らかの形で反映させた作品を出すようになっている。どう反映させるのか(あるいは、させないのか)──その表現方法や答えの示し方は当然それぞれで異なるわけだが、では一貫して地に足の着いた歩みを続け、真摯な姿勢で音楽に向き合ってきたこの2人はどのような意志表示をするのか。まずはそこに関心があった。そして本作のタイトルを目にした瞬間、やはり2人は上述の事柄にとことん向き合い、どんな音を鳴らすべきか悩み、熟考を重ねたうえでこの明確な答えに辿り着いたのだということを理解した。『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』。これがKUMI(ヴォーカル)とNAOKI(ギター)の出した答えだ。

「音楽含め、芸術というのは〈僕たち苦しいんですよ〉とか〈いま寂しいの〉とか〈私はここにいるよ〉とかってことを伝えるためのものではないと思ってるんですよ。もちろん人間だから……ましてああいうことがあったんだから、葛藤とかいっぱいあって、悩んだり、考えがブレたりするのはあたりまえだと思うけど、表現する側としては最終的にそこを乗り越えて、そのときなりの哲学を言葉じゃなく作品として伝えるべきだと思っていて。だから、ブレてるうちは、音楽を鳴らせない。ブレてたり、苦しんでたりしたことを伝えるのは僕らの仕事ではない。僕らがどういう心境で作ったかっていうことは作品で伝える必要がなくて、紆余曲折を経て掴んだ哲学を、ブレのない自分たちに辿り着いた段階で表現したかった。それは初めから思っていたことですね」(NAOKI)。

では、そこに辿り着くまでにどれくらいの時間を要したのだろうか。

「〈やっぱり音楽を作ろう〉という答えはすぐに出て。それで曲作りを始めたんだけど、そのときに作ったのが“Beautiful World”と“It's You”。音楽をやろうという結論を出したのは早かったけど、じゃあ何を歌にするか、どんな表現をするかっていうところはかなり時間をかけたし、ものすごく自分に向き合う作業だったよね。特に“Beautiful World”はカオスを表現しているものでもあるので、〈これで完成!〉っていうふうにはなかなか決められなくて。この2曲は大きかったね。でもこの2曲によってひとつ大きな答えというか、自分たちの立ち位置みたいなものを掴めたから、そこからは気持ちが楽になった。何を作ればいいのかという引っ掛かりは、この2曲が出来たことでなくなったね」(KUMI)。

震災後の状況と感情のカオスのなかで生まれた〈風に揺れるララバイ〉──“Beautiful World”によって、2人はひとつの真理らしきものを掴み、そこからはグッド・ミュージックを作ることだけに集中した。手探りで導き出した答えはその過程で確信へと育っていき、やがてそれが『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』という肯定や希望の力に満ちたアルバムへと結実したのだ。

「理想郷という意味ではないんですよ、〈BEAUTIFUL WORLD〉は」(NAOKI)。

「そう。大変なことも辛いことも哀しいこともあるけど、どんな状況にあっても光とか美しいものは見い出せるというか。楽しくないいまを置いてどこかに逃げれば上手く生きられるんじゃなくて、どんな状況にあってもそこに美しい世界を探すことができるってことなんだよね」(KUMI)。

メッセージを直截な言葉にしているわけではない。これまでと同様に、2人は決して、こうだからこうしようといった一方的な言葉を音楽にしたりはしない。

「もともと言いたいことを歌詞にしてぶつけるっていう表現ではないからね。だから、〈がんばれ〉だとか、僕らが主語になるような言葉は一切入ってない。聴いた人が主役だし、聴いた人がそれによってどう気持ちを変えられるかが大切だから。自分らのエゴは取り払って、聴き手のシチュエーションを限定しない音楽を作りたかったんだよね」(NAOKI)。



音楽に対して素でいられた

従ってこのアルバムは、ヘンに重厚な作りにはなっていないし、実験的な色合いが出たりもしていない。相変わらずというか、いままでにも増してというか、やはり圧倒的に聴き心地が良く、〈ザッツ・LOVE PSYCHEDELICO〉と言える作品に仕上がっている。しかも今作には自分たちらしいスタイルを再確認しているかのような曲、デビュー作を想起させる曲も多く含まれている。原点回帰といったような意識もどこかにあったのだろうか。

「これが6枚目のアルバムなんだけど、『Golden Grapefruit』(2007年の4作目)が〈新しいことをやろうぜ!〉っていう、ちょっと突拍子もない作品だったから、その印象もあってみんなあのあと〈原点回帰〉ってやたら言うんだけどさ(笑)。前作(2010年作『ABBOT KINNEY』)は原点回帰というより、いま思うとルーツの探求というか、憧れていた音を手に入れるためのアルバムだったんだよね。あの時代(60〜70年代)の西海岸の音をどうやったら自分たちで鳴らせるんだろうって、それを考えながらマイクの立て方から何から追求して作ったもので。そうやって憧れのルーツ・ミュージック的なサウンドを手に入れた自分たちが、じゃあもう1回ポピュラー・ミュージックに戻ってきて何も考えずにどんな音を鳴らせるのか。それをやったのが今作なんだよね」(NAOKI)。

「そういう意味では、確かにファースト・アルバム(2001年作『THE GREATEST HITS』の頃みたいに、音楽に対してすごく素でいられたっていうのはあるかもね」(KUMI)。

2人が好きで通ってきたいろんなアーティストからの影響や要素をミキサーにかけ、自分たちのセンスと経験と持ち味を加えて炒めたような曲がいくつかあることにもニヤリとさせられる。以下はすべてNAOKIの発言だが、例えば「ジョン・レノンってこれくらいカジュアルに3連の曲を楽しんでいたんじゃないかな」とイメージしながら作ったという“Shining On”。「もともとはKUMIがボブ・ディランの“Hurricane”にインスパイアされて作った曲。マンドリンを入れたらR.E.M.っぽくなったけど(笑)」と言うのは“It's Ok, I'm Alright”。レニー・カストロのパーカッションがファンキーなグルーヴを生んでいる“Almost Heaven”は、「白人が黒人に憧れてやってるようなファンクで、スタイル・カウンシルみたいな発想」。可愛らしさもあるポップソング“Favorite Moment”は、「カーディガンズみたいなスウェディッシュ・ポップっぽさ、B級感を出したかった」そうだ。また、締めの曲となる唯一のバラード“Bye Bye Shadow”は、「グラム・パーソンズの“Love Hurts”みたいにカントリーの流れを汲んだ情緒ある曲にしたいと思って」作ったとのこと。ちなみにこの曲の穏やかな終わり方には、「聴いた人がまたスッと日常に戻れるように」(KUMI)という思いも込められているのだとか。

晴れの日もあって雨の日もあり、渇きもあるが潤いもある。そんな、いまここにある日常こそが美しいのだと改めて思わせてくれるアルバムだ。



▼関連盤を紹介。

左から、2010年のシングル『Dry Town 〜Theme of Zero〜/Shadow behind』、2011年のシングル“It's You”、2012年のシングル『Beautiful World/Happy Xmas(War Is Over)』、2005年のベスト盤『Early Times』、2006年のライヴ盤『LIVE PSYCHEDELICO』(すべてビクター)

 

 

▼文中に登場したアーティストの作品。

左から、ジョン・レノンのベスト盤『Power To The People: The Hits』(Capitol/EMI)、ボブ・ディランの76年作『Desire』(Columbia)、スタイル・カウンシルの84年作『Café Bleu』(Polydor)、カーディガンズの95年作『Life』(Trampolene)、グラム・パーソンズの74年作『Grievous Angel』(Reprise)

 

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掲載: 2013年05月21日 14:15

更新: 2013年05月21日 14:15

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/内本順一