INTERVIEW(3)――たった6曲なので容赦なし
たった6曲なので容赦なし
──アーント・サリーの“すべては売り物”は異色……ですね。
「アーント・サリーってスタジオ録音のアルバムは1枚(79年)しか出してないでしょ。それが初めてCDになった当時、店頭に並んでたのをたまたま目撃しまして、何となくピンと来て買ってみたわけです。で、聴いてみたら音はスッカスカだし、Phewさんは呟いてるような歌い方だし、当時の自分の好みにはあまり合わなくてしばらく聴かないでいたの。それから何年か経って聴いてみたら、何となくPhewさんのぶっきらぼうな佇まいこそがパンクなんだということにようやく気付いたわけね。Phewさんは10代の時点でいろんなものを悟ったり諦めたりしている。私も10代はそれなりに屈折していたし、そのまま大人になってしまいましたけどね(笑)、自分なりに〈パンクとは何ぞや〉みたいなものがわかった時にアーント・サリーを理解できたのかもしれない。ちょうどキノコホテルが新しいステージに進みつつある過渡期にこのカヴァー集の話が来たので、おもしろ半分に選んでみたわけです。久々に引っ張り出して聴いたら、いまの私が本当にやりたいことはこういうものなんじゃないかってふと思ったんですね。うちの従業員は誰ひとりオリジナルを知らなかったけど、みんなおもしろがってやってくれたわ」
──手を出しにくいアーティストではありますよね、アーント・サリーは。
「そう、ある層には聖域というかね、Phewさんが神格化されてたりすることもあって、カヴァーされることってあまりなかったし、ファンであるからこそPhewさんを超えられるはずないからってみんなやらなかったんじゃないかしら。でも、私はPhewさんを超えるためにやるんじゃなくて、いまこの曲を10代じゃない大人の私たちがやること自体がおもしろいんじゃないかって。自分としては、パンクっていうのは10代だけのためにあるものではないと思っていて……本当にムカつくこと、許せないこと、心底発狂したくなる出来事、それを全部自分で呑み込んでやっつけていくのが大人のあるべき姿とされてきたでしょう。まあ最近は子供も大変みたいだし、逆に大人がラクしているような風潮もありますけど。そんな現代のなかで〈イイ大人〉と呼ばれる人々がパンキッシュなアティテュードで表現に及んだって良いと思う。誰にでも訪れる反抗期を芸術にできる、人の心に刺さるパフォーマンスができていた人ってPhewさんを含め少数であって、大半はゴミみたいなものなわけですよ。Phewさんの年代は他にもおもしろい人たちがいたけどね。この曲には普遍的な魅力があるし、それをもはやティーンエイジャーどころでない〈オトナの女性バンド〉がやることでね(笑)、また新しい意味が生まれるような気がして。私たちは、まさに自分たち自身が〈売り物〉ですし。エンジニアの中村宗一郎さんから〈ヘタなことしたら許さないぞお〉って冗談半分で脅されながら録ったんですけど、録ったのを聴いて〈イイ!〉って言ってくれて。MOST(Phewが現在活動しているバンド)がこの曲をやったらこんな感じになるかもねって言ってくれたの。それは中村さんの主観だけど、あの人もすごく慧眼だから、嬉しかったわ」
──では、最後の曲“悪魔巣取金愚”(オリジナルは休みの国が69年に発表)。冒頭にヴァイオレンスな小芝居が入りますけど(笑)。
「あれは、ステファニーっていうウチの小間使いがいてね。その子を拷問にかけてっていう……もう単に私の好みというか、日常(フフッ)」
──名演技ですね。
「演技じゃないわよ、本気よ(笑)。彼女は筋金入りのマゾヒストなんですから。前作『マリアンヌの誘惑』の時も、彼女がスタジオの様子を見に来たところを捕まえて折檻しながらこっそりテープを回したんです。おもしろかったからインストに乗せて限定ボックスのボーナス・トラックにしたの。タイトルは“ステファニーの恍惚”(笑)。それで、今回もステファニーに何かやってほしいと思って」
──ヴォーカルのハモリがすごく洒落ている曲で。
「イイでしょ。ひとりデュエットなんだけど、これって結構オシャレなね、〈カフェ系〉とでもいうのかしら(笑)。技法としてはオクターヴ違いで重ねるっていうのは昔からあったもので、これはいつか自分の声でやってみたいと思っていました。地声が低いので下は難なく歌えたんですが上がなかなかね、普段あまり使わない音域で」
──カヒミ・カリィかと思いました。
「それなら思惑通りです(笑)、上のパートは中村さんと話し合って、〈フレンチっぽいアプローチにしてみたら?〉みたいなやりとりは確かにありました。こんな可愛い、シュガー・ヴォイスも出るんだから、私(笑)」
──途中、フリージャズっぽい展開になって、そのあとのオルガン・ソロがまたカッコイイ。
「ふふ、わかっておいでね。ピアノにテープ・エコーをかけてみたの。鍵盤をヒステリックに、上手い下手はいいからめちゃくちゃに弾き倒してみました。これも一発勝負で録って」
──しかしまあ6曲とはいえ、何だかなあっていうぐらいの濃厚さで。
「何だかなあって(笑)。まあ、お腹いっぱいでしょ? これであと4曲ぐらいあったら疲れてしまうわよね。曲数に応じて濃度を考えて調整していますよ、一応。10曲だったらこれぐらいかしらとか、考えてなさそうで考えているんです。その意味ではたった6曲なのでもう容赦なし、といったところでしょうか」