インタビュー

INTERVIEW(2)――暗黙のルールみたいなものを取っ払った



暗黙のルールみたいなものを取っ払った



──では、収録曲についてひとつずつ。まずは、“Makin' Plesure Cake”。AORとでも言えばいいでしょうか。パーカッションの音色が醸し出す雰囲気だったり、コーラスの温度感だったりも後押しして、夏めいた感じの楽曲だなあと。

谷川「僕のなかではオランダの街の風景を思い浮かべながら書いた曲で、実は自分たちのために書いたものではなく、ある女性アーティストのために書いた曲なんですよ。で、アルバムを作るってなった時に、名村さんに何曲かデモを聴いてもらったんですけど、数あるデモ曲のなかから自分たちのために書いた曲じゃないものがいちばんイイって(笑)。〈マジすか?〉ってなったんですけど、他人のために作ると逆に風景を描きやすいというか、すごくいろんなことをイメージしながら作れるなって思うところはあって。さらに具体的なイメージを言えば、ジョヴァンカがこんなふうに歌ってくれたらなあ……っていう。サウンド的には、彼女をプロデュースしたベニー・シングスとかスウェディッシュ・ポップみたいに、欧米のポップスの良いとこ取り……なんだけど、ごちゃごちゃしてないっていう」

──続いて2曲目の“Take Your Mark”。

谷川「この曲は、唯一違う作り方をしたんですよ。これ、最初に谷くんが歌詞を書いてきて……〈歌詞先行〉っていうパターンはいままでになかったんですね。それに曲を付けてみたら意外と良くて。最初、谷くんからはどこの部分をサビにしてくれてもいいって言われて。それでこの〈一秒後しぶき舞う攻防戦……〉っていう部分を選んだんですけど、その部分をいちばん格好良く響かせたいっていう、そういう意識は自分で詞も曲も書いてる時には意識しないところでしたね。そういう意味では新しい挑戦でした」

──歌謡曲やニューミュージック的なメロウ感を持った曲だと思うんですけど、名村さんはどういう感想をおっしゃってました?

谷川「東京事変だったかな?」

「いや、MOON CHILDっぽいって言ってた。じゃあ、その感じでいこう!って(笑)」

──3曲目の“Smile Again”。これこそ海岸線をドライヴしたくなるグルーヴィーな曲で。

谷川「ベースで持っていく曲というか、ライヴでも踊らせたい感じですね」

「ドライヴな感じっていうのを意識してからは、ミックス段階でベースをちょっと歪ませてみたりとか、いまの音からはちょっとズレた方向に持っていって。それが上手くハマッた感じですね」

──ちなみに、ドライヴの時に聴きたい音楽というと、どういったものをイメージ、もしくは実際に聴いていたりします?

「曲を聴いて思い出とリンクさせたりっていうことはよくあるので、このアルバムも機材車のなかで聴きながら気持ちだけはトリップしてるというか、ここは海岸線だっけ?とか思いながら横見るといつものメンバーがいてっていう(笑)」

谷川「学生時代、よくジャミロクワイの“Space Cowboy”を聴いてたよね?……あっ、それは女の子とイイ雰囲気になった時だったっけ?」

「いやいや(笑)」

──続いての“ジーン・ラプソディ”は、ちょっとレイドバックした感じというか、カントリー・ロックっぽい長閑さもあり。

谷川「アレンジのアイデアを出してくれたのは名村さん。もともとは全然違う雰囲気で、“Smile Again”みたいにグルーヴィーな感じだったんですよ。だから最初、歌う時に戸惑ったんですよね。でも、結果的には今回のアルバムでいちばん好きな曲かもしれないです。ずっと歌いたかったことを歌詞にできたっていうのもあるし」

「この曲で歌い方をちょっと変えたよね。サステインを切る感じというか、曲のなかでも歌い方を変えるとか。そしたら曲の部分部分が引き締まって聴こえて。谷川の新しい魅力を発見することもできたし、そういう意味でも気に入ってるんじゃない?」

谷川「確かに新しいよね。曲のイメージとしては、アメリカのインディー・バンド、それこそグリズリー・ベアがやってるような、粗削りな感じもありつつ、最近のトレンドもありつつみたいな」

──5曲目の“The Inner Light”はストレートなラヴソングですね。

谷川「良いバラードを作りたいねっていうのは前々から話をしてて、今回も書けなかったかあ……ってなりかけてたんですけど、名村さんから〈もう1曲欲しい〉って言われて最後の最後に絞り出せました。この曲がここにあることで、アルバムもグッと締まったと思いますね。この曲では〈愛してる〉っていう言葉をどう歌うかっていうことに重きを置いたというか、そこに尽きる曲。あと、この曲はドラムのパターンが結構凝ってて、あまり聴き取れないかもしれないですけど、スネアのゴーストがシャッフルしたりしなかったりっていう」

──あっ、そこ気を付けて聴いてみます! ところで、お2人のお気に入りのバラードは何ですか?

谷川「やはり、スティーヴィー・ワンダー。最高ですね。特に“Ribbon In The Sky”って曲が好きです。ライヴ盤では途中バンドの演奏が止まって、スティーヴィーのピアノだけになるんですけど、そこは何回聴いても鳥肌立ちますよ」

「僕は、今回の制作期間中にも聴いてたんですけど、中島みゆきの“ファイト!”とか感極まるものがありますね。感情を前面に押し出さないと真のバラードにはならないし、“The Inner Light”のオケを録っている時も、そういう雰囲気はすごく大事にしました」

──では、続いて“Cuckooland”。

谷川「この曲もある女性アーティストに書いたものなんですけど、佐藤が新しく書いた別の曲があって、それといっしょにしちゃおうかって」

「そう、同じ人に向けて書いたわけじゃないんですけど、なんとなく雰囲気近いよね?って」

谷川「そしたら、Aメロ→Bメロ→Cメロ→サビって全部転調していくすごい曲になったんですけど、仕上がりはすごくポップで。これ、唯一女性コーラスが入ってる曲だから、可愛らしい感じにもなってます」

──昔のフレンチ・ポップ的なメロウ感もちょっぴりありますね?

谷川「フレンチって言うとオシャレですけど、佐藤は結構〈昭和感〉みたいなものを持った男で(笑)、曲とか詞とかにそういうニュアンスが、たぶん何にも意識してないと思うんですけど、出たりしますね。別の世界観の共存っていう意味で、僕と佐藤の世界観が上手く交わった曲になりました」

──この曲に限らず、今作では曲作りの自由度が増してますよね。

谷川「そうなんですよね。以前だと、歌詞は絶対僕が書くとか、曲を書いたら歌わないといけないとか、そういうのがありましたけど、今回は佐藤や谷がリード・ヴォーカルをやってもいいし、いっしょに歌詞を書いてもいいしみたいな、暗黙のルールみたいなものを取っ払った感じですね、結成17年目にして(笑)」


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掲載: 2013年06月05日 18:00

更新: 2013年06月05日 18:00

インタヴュー・文/久保田泰平

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