LONG REVIEW――畠山美由紀 『rain falls』
この歌声の雨ならば……
梅雨はもちろん、五月雨にこぬか雨、天気雨、涙雨……エトセトラ、エトセトラ。ここ日本には古来より雨に思う人々が多かったからなのか、雨を表す言葉や言い回しが思いのほかたくさんある。現代人の私たちとて、雨空を見上げてつい物思いに耽ったり、湿気ムンムンの空気にヤラれて気分まで憂鬱になったり。かと思えば、快適な室内から眺める雨粒の音色に、どこか心穏やかにさせられたりもする。そんな、人々にさまざまな感情をもたらす〈雨〉を印象的に扱った音楽は、古今東西、常にクリエイトされ続けてきた。雨ソングの代表格と言えるジーン・ケリーの〈雨に唄えば〉をはじめ、ビリー・ジョエル〈小雨降るパリ〉、サイモン&ガーファンクル〈雨に負けぬ花〉、邦楽では小林麻美“雨音はショパンの調べ”や森高千里“雨”など――このようなレインソングのラインナップに新しく加わるのが、畠山美由紀の新作である『rain falls』だ。
幼い頃より雨が好きで、かなり昔から雨のアルバムを作りたいと思っていたという彼女の思いが詰め込まれた今作は、表題通り〈雨〉をテーマにしたコンセプト作。すべて雨にまつわる楽曲で構成された作品は意外と少ないかもしれない……などと思いつつ耳を傾けてみる。優美なストリングスが美しき夏の過日を思わせる“叶えられた願い”や、泥臭いエレキと彼女の力強い歌声が相まって生命力のあるサウンドに仕上がった“光をあつめて”、哀愁を感じさせるバンドネオンやピアノのアンサンブルがまるでフランス映画の如く詩的に響いた、本作の軸とも言える“夜と雨のワルツ”――多彩な雨の表情を彼女なりの視点で切り取った、時に瑞々しく、時に幻想的な音像に落とし込んだ楽曲群に加え、ここでの彼女の歌声は清冽ながらもどこか憂いを湛えていて、まるで大地を潤す恵みの雨のよう。
この歌声の雨ならば、いつまでだって打たれていたい――そんなことを思わせる、エレガントな作品だ。