インタビュー

INTERVIEW(2)――答えはひとつじゃない



答えはひとつじゃない



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──言い方悪いですけど、聴いた瞬間、えげつないぐらいアーバンだなと(笑)。

一十三「泣けるほどアーバンにいきたいなって考えてました」

──まずジャケットからしてホイチョイ的。80年代のシティー・ポップというのは、若者の遊びカルチャーと密接な関係があったものでしたけど、まさにそれで。

弓削「ヴィジュアルってホント大事だと思うんですよ。特にフロント・カヴァーですよね。これはちょくちょくいろんなところで言ってるんですけど、現代はイマジネーションを膨らませる素材が少ないと思うんですよ。雑誌広告にしろTVCMにせよ。だから、イマジネーションを膨らませるきっかけを与えるヴィジュアル作りを僕は常にめざしていて。このジャケットも、まあパッと見て一瞬何だかわかんないじゃないですか。なんか夏な感じで、海があって、〈何だこれは?〉っていうのが飛んでて……まず見て、感じて、考えるっていう作業から入ると思うんですよ。そこから、〈このCDに入ってる音ってどんな感じなんだろう?〉って想像していくと思うんですよ。僕がジャケ買いするときなんかはそういう感じなんです。そういう作業というか、きっかけを与えたい。それが本来のジャケットのあり方なんじゃないかなって思うんですよね。80年代って、音楽だけじゃなくて社会全体がリゾート感に溢れてたじゃないですか。〈ロンバケ〉(大瀧詠一『A LONG VACATION』)のジャケットを見ただけで、これはどこか旅行にでも行ったときに合う音楽なんだろうなあとか想像はできたと思うんです。僕も小学生のときに聴いてそう思いましたから、イマジネーションを膨らませるヴィジュアルって大事だなって」

──『Surfbank Social Club』のジャケットを見て、夏っぽくて気持ちの良い音なんじゃないかな?っていうのは、一十三十一というアーティストを知らない人でも想像できるんじゃないかと思います。

弓削「そういうことを感じさせられたらそれは大成功だなって思いますね。答えをあえて与えずにイメージさせるっていう……でも、いまの広告やCMは説明ばかりじゃないですか。イカしたキャッチコピーがないっていうか。ヴィジュアルとキャッチコピーのバランスで何をやりたいんだろう?って思わせておいて、でもヴィジュアルは問答無用にカッコイイなとか、そういうところから掘り下げていく楽しみを与えるというか、そういうのが豊かな80年代には溢れてたんだなって思いますね」

──ヴィジュアルやキャッチコピーでイメージさせるっていう表現方法は、確かに80年代的なものなのかもしれないですけど、その時代のものだったっていう結論では終わらせたくないですよね。

弓削「インターネットのおかげで何でも答えが見つかる時代なので、当然その考える力が……衰えてるというよりかは、考えることを当時より圧倒的にしてないなって思うんですよ、何するにも。それで文化度が下がってるとかは思わないんですけど、手を動かして自分で調べたりすると、そこから発見があったり考える角度が変わっていって、こんなところに答えがあったんだ!とか、いろんな驚きがあるわけじゃないですか。いまはストレートに答えに行き着いちゃうんで、そういうのはたぶん減ってきてるんじゃないかなって思うんですね」



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──『Sufrbank Social Club』というタイトルも、何か楽しげなことをやってそうだなって想像を掻き立てますね。

一十三「これは弓削さんが考えたもので。歌詞を書く前に決まっていたので、ここからイメージを広げていったんです」

弓削「それこそホイチョイ的な青春群像というか。このアルバムを買った人はもれなくサーフバンク・ソーシャル・クラブのメンバーですよ、同じ価値観を共有してる仲間ですよっていうことで。でもまあ、如何様に取っていただいてもいいんですよ。答えはひとつじゃないというか、それぞれが答えを見つけてほしいなっていう。選択の余地があるというか」

──『CITY DIVE』もそうでしたが、今回も〈こういうメッセージを伝えたい〉っていうものではなく、言葉やサウンドのムードで思い思いの風景を描かせながら気分を高めてくれるものですよね。

弓削「80年代のシティー・ポップがまさにそうでしたよね」

──というわけで、一十三十一らしいフレーズをいくつかピックアップしてみました。

飲み干したジンジャエールが flashback させるパラダイス
――“Last Friday Night Summer Rain”

dancin'/終わらない情熱と冷静の間で巡るメロディーに乗せて
――“Dolphin”

忍び寄るベルベッドアワー/時が瞬きしてる間の蜃気楼
――“Before Velvet Hour”

one day/中2の夏みたい/濡れる feel like bayside love/メモリーズ上書きされ/また夏が巡る
――“Feel Like Bayside Love”

抱きしめて腕の中/ささやかな奇跡が/二人を誘うの/瞬く摩天楼
――“Metamorphose”

一秒ごとに遠ざかる潮騒/言葉なんか野暮だわ/ラストダンスは
――“Endless Summer Holiday”

一十三「前作同様に、今回も真冬に真夏の歌詞を書くのがすごく楽しくて。至福の時間でしたね」



カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2013年06月19日 18:00

更新: 2013年06月19日 18:00

インタヴュー・文/久保田泰平