LONG REVIEW――LEO今井『Made From Nothing』
無から有を生み出す鋭敏な感性
〈無から生まれた〉というタイトルからして意味深な新作『Made From Nothing』には、生音と電子音、日本語と英語、知性と情動、普遍的なポップセンスとアヴァンギャルドな実験精神、西洋ロックと非西洋な音楽、リアルとファンタジー――そんな相対するさまざまなものが混在しており、それらが絶妙なバランスでまとまっている。その調和が生み出す無国籍な折衷感から個人的に連想するのは、例えば(サウンド的には異なるが)デヴィッド・ボウイのベルリン3部作や、菅野よう子によるサントラ(特にTVアニメ版「攻殻機動隊」シリーズ)だ。いずれもロック的なマッチョイズムから距離を置くクールな感性に彩られていて、なおかつまだ見ぬ異国の都市への想像を掻き立てる、エキゾティックな魅力に溢れていると言えるだろう。
このアルバムに収められているのは、そういったストレンジャーな感覚が息づく楽曲の数々だ。1曲目“Tabula Rasa”は東洋音階的な打ち込みのフレーズがグランジ直系のダイナミックなギターと合わさるポリリズミカルなナンバー。さらに、ヘヴィーなギター・リフに乗せてさすらい人の侘しさが歌われる“Furaibo”なんて曲もあるし、監視カメラに囲まれた世界のあり方を問う“CCTV”は80年代シンセ・ポップのようなサウンドが近未来っぽい雰囲気を醸している。また、途中からジャングルへと変わる“Doombox”、ファンキーなギター・カッティングと昂ぶり極まってのシャウトが岡村靖幸っぽい“My Black Genes”といったダンサブルな楽曲も搭載しており、サウンド面での間口はかなり広い。
何より彼の書く歌詞は、歌った時の語感を尊重しつつ聴き手に映像を喚起させる、言葉遊びが効いた奥行きの深いものだ。〈無意味な空から引っぱり抜き出した歌〉(“Made From Nothing”)と綴られているが、無から有を生み出す鋭敏な感性があるからこそ、LEO今井は定型の枠に収まらず、まるで街から街へと渡り歩く旅人のように奔放な音楽をクリエイトできるのだろう。
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