インタビュー

INTERVIEW(3)――hideが〈楽しんでるねえ〉と笑ってくれれば



hideが〈楽しんでるねえ〉と笑ってくれれば



INA
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――今回、〈CLUB PSYENCE〉と同様に音楽的なキーワードとして提示されているのが、〈PSYBORG ROCK〉というもの。僕自身、hideさんとの会話のなかでこの言葉や〈PSYBORGROOVE〉といった言葉を耳にしたことがあるんですが、これについても改めて説明していただけますか?

「98年にhide with Spread Beaverという名義に変えて、ソロ活動の仕切り直しみたいなタイミングを迎えた当時、ちょうど世の中にデジロックと呼ばれるものが溢れはじめてきていて。簡単に言えば、人間がやることと機械にできることをうまく融合させたようなロックですよね。hideもまたそういったものをめざしていたわけですけど、そこで〈なんかデジロックって言葉を使うのは嫌だなあ〉というのが彼の口から出てきて。そこで、じゃあ自分たちの作ってるものは〈PSYBORG ROCK〉と呼ぶことにしようじゃないか、と。要するにそういうことだったんです。言ってみれば、いまみたいに誰でもプロトゥールスを使って簡単に音を編集できるような時代ではまだなかったし、みんな試行錯誤しながらそういうものを作っていたわけですよ。hideもまたそれにいち早く取り組んでいたわけですけど、実際、いまだったらボタンひとつ押せばすぐにできるようなことを、丸1日かけて手作業でやったりしてたわけなんです。ホントに手間暇を惜しまずに、ストイックに取り組んでましたよ。ただ、彼自身も当時、あんまり具体的な説明とかはしていなかったはずなんです。僕も彼から言われてましたからね、〈訊かれてもあんまり言わないように〉って(笑)。まあやっぱり、みんながやってないようなことをやっていたわけですから。企業秘密というわけじゃないにしても(笑)。いまではそれを誰でも普通にやっている、というのもすごいことだと思いますけどね」

――hideさん自身、秘密にしたくなるくらい画期的な方法論を見つけたという感覚だったんでしょうね。

「そうですね。何年間かかけてZilchをやってきた経験もあれば……元を正せば、ソロ活動を始めた当時からずっとハード・ディスクを使ってやっていたわけで。何年も実験を重ねてきたうえで作られたものだったわけです。で、よく言われることなんですけど、それをいまになって聴いても古く感じられない。それは〈PSYBORG ROCK〉が完全なオリジナリティーとして確立されていたからだと思うんです。少なくとも僕はそう思ってますね」

――INAさんには、例えばその〈PSYBORG ROCK〉の進化形を作りたいという気持ちもあるんじゃないですか?

「そこまで大袈裟なものはないですけど……。ただ、例えば今回の作品に入ってる“DOUBT”という曲の音源は、そもそも92年ぐらいに作りはじめたものだったわけですけど、今回のトラックには、ちゃんとその当時の音も入ってるし、クラブ・イヴェントをやるにあたってベーシックを作り直した頃の音も、『Ja,Zoo』のアルバムに収録されたときの音、その後にリミックスされたときの音も全部入ってるんです。しかもそこにまた新たな要素を加えたりもしてるし。つまり、過去20年以上の積み重ねがこの1曲のなかに共存してるわけなんですよ。改良に改良を重ねてきた過程というのが」

――そういう意味では、過去の集大成のようでありつつも、実はちゃんとアップデートされた音源になっているわけですね。ところで今回のシリーズでは、この作品以外にもさまざまなコンセプトによるトリビュート・アルバムが登場しています。こうした一連の作品に触れながらINAさんが改めて感じることというのは何でしょうか?

「やっぱり改めて感じさせられるのは、ホントにいい曲を書いてたんだなってことで。今回、このアルバムと同時にクラシカルなものもリリースされるじゃないですか。あの作品も、いわゆるクラシカル・ヴァージョンみたいなものばかりが入ってるわけじゃなく、めずらしい楽器でのアプローチとかもあってすごく興味深かったんですけど、それでもhideのトリビュート作品として成り立ってるのは、楽曲自体のメロディーがちゃんとしてるからだと思うんです。それをすごく感じましたね。ヴィジュアル系のトリビュートを聴いたときも、わりと原曲に近い感じでやっている人たちが多いことに気付かされて。結局、突き詰めていくと、みんなオリジナルのメロディーを大事にしたくなるんだろうと思うんです」

――同感です。それもまた先ほど言った普遍性という部分に重なるのかもしれませんね。そして結果、この作品は、hideさんに対する2013年のINAさんからの回答、みたいなものでもあると解釈していいんでしょうか?

「そこは……どうだろう? 正直、今回はそんなに重い意識では取り組まなかったんですよ。これまでの再構築の作業では、どうしても〈hideだったらこうしてたんじゃないか?〉みたいなことを意識するところがあったんです。だけど今回は僕の責任編集みたいな形でもあるし、そういった重い使命感みたいなものはあえて抜きにして、自分の好きなようにやろうというのが基本的にはありましたね。ただ、もちろん聴いてくださる方々に楽しんでいただけるものにしたいというのが第一にはありました。もちろん僕の場合、当事者の一人でもあるから、いろんなアーティストたちが集まってトリビュートするのとはまた違ってくるところがあるし、当時の音に対する答えみたいな意味をもってくることにはなると思うんです。でも、そんな難しい話じゃなくて、これを聴いてくれたhideが〈楽しんでるねえ〉と笑ってくれればいいなと思うんです。だから、皆さんが聴いて感じてくださったこと、それがこの作品の答えなんだろうと思います。リスナーの数と同じだけ答えがあっていいというか」




カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2013年08月28日 18:01

更新: 2013年08月28日 18:01

インタヴュー・文/増田勇一