Hans Zimmer
「いい音楽を作るにはユーモアが欠かせないね!」
先頃『アメイジング・スパイダーマン2』の音楽担当就任も発表。ここへ来てコミック・ヒーロー映画への関わりが広がりつつあるハンス・ジマーだが、そもそも故郷ドイツでの思春期には厳しい両親からコミック禁止令が出ていたというのだから面白い。
「テレビも観ずに育ったんだ。この8年間、コミックに登場するキャラクターについて、あれやこれやと考えなければならなかったというのにね(笑)。でも、コミックは現代社会におけるお伽噺や寓話的な存在になっているんじゃないかな。特に日本ではそういった伝統が色濃いだろう? お伽噺や寓話はコミック同様、ほかでは形容できないような人間の精神を反映するものだと思う。とてもバカにはできないよね。それに、何より心が安まるものだ。想像力が大部分を占める世界なので、それぞれの物語が持つテーマと世界を航海する楽しさがあるんだ」
現在、世界的大ヒットとなっている映画『マン・オブ・スティール』では、『バットマン』シリーズとは対照的なアプローチを試みたという。いわく「人間の素朴さ、善良さを讃歌する音楽にしたかった」。
「スーパーマンも僕も異国の地からやってきた異邦人なんだよ。非凡なる彼は人間の仲間に入りたいと思っている。いかにしてその輪の中に溶け込むのか、そのときに何が起きるのか。それがこの作品で僕が考えたことだった。そういった視点を持つこと自体はたやすかったけど、何しろ僕はリチャード・ドナー監督の『スーパーマン』が大好きだったからね。あのジョン・ウィリアムズの後を継ぐ仕事と考えたら、本当にどうしたらいいのかわからなかったよ。『ダークナイト ライジング』のプレミア上映をを終えた後、3ヶ月ほど何も出来ずにいて、周りから『いいかげんにしないと、映画が公開できない』と言われる始末でね。ただ、その右往左往する中で突如、創造の爆発が起こるんだ。すると〈クリエイティブ・ゾーン〉に入ることができる。そうなるとこの上ない快感だよ。時間を忘れて、帰宅時間も朝の4時になったりするんだ」
仕上がった音楽は、ジマーならではの実験精神を備えた〈サウンド〉となった。とりわけ、15人もの人気ロック・ドラマーを一堂に集めて組織したドラム合奏団=通称〈ドラム・オーケストラ〉から放たれる臨場感は本作品の聴きどころのひとつである。
「起用したミュージシャンはロック界のA級スターばかりだ。ステージでは主役を張っている彼らをコンサート・ホールへ連れて行って、同じパートを同時に演奏させたらどうなるかを見てみたかったんだ。彼らはお互いのことを知っていたけど、それまで共演したことがなかったから楽しんでいたみたいだよ。それぞれ自分のエゴを退けて、ひたすらスーパーマン級のエネルギーを作り出すことに集中してくれたね。いい音楽を作るにはユーモアと遊び心が必要だと思う。やはり真空からは何も生まれないんだ。ほかのミュージシャンと組んで作業をすることが大事。そうしないと、とてつもなく孤独な作業になる。人はひとりになると、内なる声の悪魔が肩の上に乗ってきてひそひそと耳元でつぶやくんだ。作曲家は部屋の中でひとりで過ごす孤独な存在で、その意味では今作のテーマに通じるところがあるね」
そう、今やハリウッド映画業界のトップに君臨する作曲家となったハンス・ジマーの最大の特徴は、集団作業による音楽創作を繰り返しているところだろう。彼が主宰する音楽家集団〈リモート・コントロール〉は、ジマーのロンドン時代の恩師スタンリー・マイヤーズが行ってきた活動を継承するもので、ジマーの音楽理念の象徴ともいえる。
「わがグループは様々な国から集まった音楽家たちによる奇妙なキャンパス集団のようなもの。ひとりでは到底できない技術開発に取り組んで、グループとして自立しているんだよ。僕は音楽家になっていなかったら、技術者になっていたと思う。今の仕事は音楽も技術も両方使えるからいいね(笑)」
今年56歳。『レインマン』を手がけて以来、ハリウッド生活も四半世紀を数えるベテランとなった。
「ザ・ビートルズは《ホエン・アイム・シックスティ・フォー》という曲を作っているけれど、今はこの曲をどう思っているんだろうね。僕なんか今も20歳の頃のように答えのない疑問が頭をもたげるんだ。朝起きても、抱えている問題を意識せずにはいられないし、夜も音楽のことしか考えられない。それは自分が聴きたい音、自分をハッとさせる音を常に作りたいからなんだろうね。でも、僕がいかにもドイツ人作曲家らしく、しかめ面をしていると、仲間の誰かが冗談を言って和ませてくれるんだ。やっぱりいい音楽を作るにはユーモアが欠かせないね!」