インタビュー

I AM LEGION 『I Am Legion』



鋼鉄がバウンスし、咆哮がマイクを支配する……ついに超獣合体を果たしたノイジアとフォーリン・ベガーズが、研ぎ澄ませた轟音の刃を、いま猛々しく世に放つ!!!!!



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このプロジェクトは砂場のようなものだ

べース・ミュージックのファンならば胸を躍らせるだろうビッグ・プロジェクトが始動した。その名はアイ・アム・リージョン。デビュー以来、破壊力のあるサウンドでドラムンベース・シーンをリードしてきたノイジアの3名=マーティン・ヴァン・ソンデレン、ニック・ルース、タイス・デ・フリーゲルと、UKヒップホップ界でもっとも多才なチームであるフォーリン・ベガーズ(以下FB)のMC2名=オリフィス、メトロポリスから成るプロジェクトだ(FBのDJノーネームスは今回不参加)。

「最初はお互いの曲を知っている程度だったんだけど、互いに尊敬し合っている関係だと知ってからは、すぐにノイジアのアルバム『Split The Atom』のためにセッションすることになった。そのおかげで“Shellshock”“Contact”“Soul Purge”“Shake It”といった互いのアルバム向けの曲が出来たんだ」(ニック・ルース:以下同)。

その後、ノイジアはポップ・シンガーのクラウス、ハドーケン!、コーンのプロデュースに加えていくつものリミックスを手掛け、FBもスクリレックスをはじめとする数多の客演をこなし、昨年はマウストラップからアルバム『The Uprising』をリリースするなど多忙を極めていた。そのため、すぐにプロジェクト結成へと発展することはなかったが、互いの活動の合間を縫ってセッションを行い、「凄い数の曲を作り上げていた」ことがきっかけとなってアルバムへと意識が向いたようである。

「ソニー(スクリレックス)は俺たちのコラボについて結構前から嗅ぎ付けていてね。彼はノイジアともFBとも仕事をしているから、完成したデモを聴かせて、リリースに興味があるか尋ねてみたら、もちろん興味があるって言ってくれたんだ(笑)」。

こうして完成した『I Am Legion』は、スクリレックス主宰のOWSLAをプラットフォームにしての登場となった。

「このプロジェクトが俺たちの砂場のようなものだって、お互いに早い段階で気付いたと思うんだ。もともとはアルバムを意識していなかったから、曲を統一させる必要もなく、好き勝手に実験してみたりもしたしね。他のプロジェクトなど一切気にせず、とにかく自由にやった感じだよ。それにFBとはビートや曲のインスト部分、曲間のスキットなどもいっしょに作った。ノイジアではビート作りをヴォーカリストに協力してもらうことなんてないからね!」。



それは音楽に影響するべきじゃない

ときどきハングアウトする間柄にまでなった彼らが、何の気負いもなく臨んだアルバムには、重厚なブレイクビーツと疾走感のある2MCの咆哮が交差する“Make Those Move”、身体を突き抜けるタイトな電化ビートにクールなラップが乗る“Ice”、アトモスフェリックなヒップホップ・チューン“Loose On The Leaves”、そして「トラップをやるなら絶対にパーティー・トラック以上のものにしたかったから、少しダークな要素としてマインド・コントロールをテーマにした心を揺さぶる歌詞やプロダクションを加えて仕上げたんだ」という(スクリレックスの作品でも知られる)トニー・トゥランド製のPVも話題のシングル“Choosing For You”など、ダブステップ、グライム、トラップ、ドラムンベース、そして分類の難しい文字通りプログレッシヴなビートが入り乱れた、ルール無用の快作に仕上がっている。そこには実験精神こそ旺盛だが、決して小難しさはなく、繰り返し聴きたくなるようなベース・サウンドの魔力が横たわっているから厄介なのだ。

今後はアルバムを引っ提げてライヴ・パフォーマンスにも力を入れていくという彼ら。ベース・ミュージックやEDMが盛大ないまこそ、アイ・アム・リージョンがより大きな成功を手に入れる最大のチャンスとも言えそうだが、ニックは驚くほど現状を冷静に見つめていた。実に頼もしいほどに。

「現状はエキサイティングである反面、自分たちが何をどのようにやるか、何をリリースするかをもっと気をつけなきゃいけない気がしている。注目度が高いからって良いことばかりじゃなくて、いまはリスクも高まっていると思うよ。短時間でこのジャンルへの需要が高まったから、市場原理に基づいてそういう音楽の供給も急に増えている。ただ、アーティストとしては他より高品位なものを常にめざすだけだし、オーディエンスが拡大しているからって、そのことが自分たちの音楽に影響するべきではないと思っている。それは俺たちにとって二次的なものでしかないんだよ」。



▼フォーリン・ベガーズの客演作を一部紹介。
左から、DJKENTAROの2012年作『Contrast』(Ninja Tune)、カリックス&ティービーの2012年作『All Or Nothing』(Ram)、バーディマンの2011年作『I Done A Album』(Sunday Best)

 

▼ノイジア関連の近作を紹介。
左から、プロディジーの97年作の20周年記念盤『The Fat Of The Land: Expanded Edition』(XL)、ハドーケン!の2013年作『Every Weekend』(Surface Noise)、フェイス&ノイジアの“MPD”を収めたコンピ『Hospitality Summer Drum & Bass 2013』(Hospital)

 

▼ノイジアのプロデュース曲を含む作品。
左から、コーンの2011年作『The Path Of Totality』(Roadrunner)、アレクシス・ジョーダンの2011年作『Alexis Jordan』(Roc Nation)、FBも参加したスクリレックスの2010年作『Scary Monsters And Nice Sprites』(Mau5trap)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年09月25日 17:59

更新: 2013年09月25日 17:59

ソース: bounce 359号(2013年9月25日発行)

インタヴュー・文/青木正之