BROKEN HAZE 『Vital Error』
[ interview ]
Keisuke Itoのソロ・ユニット、BROKEN HAZEのセカンド・フル・アルバム『Vital Error』がついに完成した。ここ数年のBROKEN HAZEは、海外のアーティストやレーベルと盛んに交流しながら、ダブステップ以降のベース・ミュージックの潮流と共振するサウンドをさまざまな形で展開し、国内外からの高い注目を得ていたわけで、実に5年ぶりとなるこのオリジナル・アルバムを待ち焦がれていた人も多いことだろう。果たしてアルバムには近年の彼を特徴付ける、フューチャリスティックでドラマティックなサウンドが並んでいる。だがその一方で、フロアを見据えた従来の作風とは一線を画す、異色のアプローチを取った作品でもあるようだ。前作以降の活動について、そして新作について話を訊いた。
もっと自由に音を作ればいいんだ
――ざっくりとキャリアの出発点から伺います。音楽的なルーツはヒップホップなんですよね?
「はい。もともとはヒップホップのDJをやっていて、スクラッチとかターンテーブリズムにハマっていったのが曲を作りはじめたきっかけですね。そこからアブストラクト(・ヒップホップ)やエレクトロニカのほうに踏み込んでいって。DJ KRUSHさん以降の流れと言いますか」
――2008年にリリースされた前作『raid system』はエレクトロニカ寄りのヒップホップという印象でした。
「前作はヒップホップを軸にして、他のものを混ぜ込んでいけないかなと思って作りました。当時のエレクトロニカと呼ばれるものって、かなり実験的な要素が強かったですよね。そういうところが新鮮で採り込んでいったんです」
――前作は、そういった実験的な方向性のひとつの到達点みたいな位置付けですか。
「ただ、あのアルバムは、かなり実験的だった10曲くらいのストックを捨てて、一からやり直して完成させたんですね。全体の曲よりも音の粒のひとつひとつを重視するようなエレクトロニカのアプローチにちょっと飽きてしまったというか、実験的ではあるけど、果たして音楽的におもしろいのかなって思いが制作中に芽生えて。そこで、もっと音楽的なものにしたいと考えて、メロディーを重視する方向で楽曲を作っていったんです」
――なるほど。エレクトロニカ寄りの路線の終着点というよりは、その後の流れの始まりになった作品なんですかね。
「そうですね。もっと自由に音楽を作れるなと」
――その後、ダブステップ以降のベース・ミュージックの流れとシンクロするような作風へとシフトしていきますよね。『raid system』以降はリミックスやシングル/EPのリリースがいろいろとありましたが、変化のきっかけになった作品はありますか?
「前回のアルバムを出した時点で考えていたのは、もっとメロディックなものを作りたいということだけなんですよね。だからダブステップとか、いわゆるベース・ミュージックをものすごく意識したかというと、そんなことはなくて。ただ、リスナーとして聴いてはいましたし、DJとしてもかけていたので、自然と吸収していったのかなと思います。そういう意味では何かきっかけがあったわけではなく、徐々に変化していったんじゃないですかね」
――ダンス・ミュージックの枠組よりもメロディーのほうを意識していたと。
「ヒップホップやエレクトロニカを聴く一方で、以前からポスト・ロックとかバンドもの――メロディアスで展開があるものも好きだったんです。J-Popも分け隔てなく聴いてますし。それこそ10代の頃は〈こういうもの以外はカッコ良くない〉みたいな枠を自分で作っていたかもしれないけど、その後はリスナーとしてどんどん解放されていって。そういう趣向が本作には強く反映されていると思います」
――ヒップホップをルーツに持たれている方のなかには、自分なりのヒップホップ感覚に響くかどうかで、さまざまな音楽を聴くタイプもいらっしゃると思うんです。BROKEN HAZEさんの場合はいかがですか?
「それはすごく難しい質問ですけど……やっぱりキャリアの出発点の頃に聴いていたヒップホップは、自分の芯に強く刻まれているものですね。ただ一方で、ヒップホップってすごく自由なアートフォームだと考えていて、その時代その時代でいろいろなサウンドを柔軟に採り入れて、変化させていくじゃないですか。いまだったらEDM的な音も採り入れたり。個人的に特に衝撃だったのはティンバランドの登場で、変な言い方ですけどエレクトロニカ以上にエレクトロニカな音だと感じたんです」
――ヒップホップの枠組を解体するようなサウンドでしたよね。
「それを受けて、もっと自由に音を作ればいいんだ、と思ったし、それがヒップホップだと考えるようになりました。だから、いま作ってるような、いろんな要素を採り入れた音も、広義のヒップホップと捉えてやってはいます」