INTERVIEW(3)――聴くジャンルを広げるきっかけになれたら
聴くジャンルを広げるきっかけになれたら
――前半は速いBPMの楽曲が並んでますが、中盤からはヒップホップ的なビートの曲が登場していて。いろんなテンポの曲が詰まっていますね。
「昔は必ずビートから作ってましたけど、いまはメロディーから取り掛かる場合も結構あって、曲の作り方はその都度違うんです。なんらかのモチーフがあって、そこに向けて進んでいく感じですかね。その結果、BPMが90の曲も160のものも一枚のアルバムのなかに並ぶことになった。だからテンポはあまり意識してなくて、曲としておもしろければいいかなと」
――そういうところもダンス・ミュージックとは一線を画している感じがありますね。ダンス・ミュージックだとテンポがジャンルを規定するところがあるじゃないですか。
「もちろん、ジュークとかダブステップとかの要素を採り入れてはいるんですけど、ジュークそのもの、ダブステップそのものになってない曲ばかりだと思うんです。基本は自分のスタイルありきなので、ルールやフォーマットからはズレたものになっているかもしれません」
――ただ、ダブステップ以降のシーンに限って言うと、ひとつの作品のなかでテンポがバラけていることも結構普通になってきている感じがします。今作にリミックスで参加しているマシーンドラムも、いまやそういうスタイルですよね。
「マシーンドラムも以前からメロディアスな作風でしたからね。僕と同じようなことを考えているクリエイターが増えてきていると思うんです。踊れる曲を作る人と、踊れる要素を意識せずに作っている人に二極化している。ビートよりもメロディーとかコード感が強調されているものを耳にする機会も多いですし」
――アルバムの後半には、リミックスを中心にコラボ曲が並んでいます。
「こういうオリジナル・アルバムにはリミックスを入れないのが一般的かもしれないですけど、僕はオンライン上でいろんなアーティストとやり取りしながら音楽を作るという自分なりの制作スタイルを作品にも反映させたかったんです。他のアーティストが手掛けたリミックスも含めてひとつの世界観を作るのがおもしろいかなと」
――コラボ曲のなかでもとりわけ異色の仕上がりを見せているのが、ラストの“Hidden Session with Takashi Kashikura(toe)”。この曲にはtoeのドラマー、柏倉隆史さんが参加されています。
「toeは昔から好きでライヴも観ていて、いつか自分の作品に参加してほしいと思っていたんです。それに、トラックメイカーがドラムの部分を誰かに託すことってあまりないから、おもしろいんじゃないかと。柏倉さんのドラミングって、僕らみたいなコンピューターで作ってる人間からするとまったく思いつかないようなパターンなんですよ。〈こうなっちゃうの!?〉って驚きの連続で、ニヤけっぱなしでしたね。とにかく自由にやっていただいて」
――バンドのフィジカルなグルーヴ感がストレートに反映された楽曲ですよね。
「エレクトロニックな音楽にあまり馴染みがない人にもぜひ聴いてほしいですね。なにかのきっかけで、それまで聴いてなかったジャンルに興味が広がっていく瞬間ってむちゃくちゃ楽しいじゃないですか。そういうきっかけになったらすごい嬉しいです」
――いわゆるベース・ミュージックはものすごく盛り上がっているし、おもしろい作品も多いですけど、入口になるものが見つけにくいように感じます。
「そういう意味では、今回参加してもらったDE DE MOUSE氏は外側にいる人にとっての入口になると思うし、すごく共感もできるアーティストですね。ダンス・ミュージックの要素がしっかりありつつも、独自の世界を作っている。方向性は違うけど、接点を感じるのでリミックスをお願いしたんです」
――DE DE MOUSEさんのロマンティックな個性が強く打ち出されたリミックスですけど、アルバムのなかに違和感なく収まっています。
「日本人に参加してほしいという気持ちから、DE DE君や柏倉さんにお願いしたという側面もあります。オンラインで交流するなかで、自分は日本と海外の差をほとんど感じなくなってはいるんですけど、まだ世間一般では海外至上主義って残っている気がして。線引きをしないでごっちゃに楽しめればいいなと思って」
――さて、今回、ダンス・トラックの枠組に縛られない作品を出されることで、今後のアルバムの展開も自由になったというか、いろいろな方向性が考えられますよね。
「次にどのような形で作品を出すかはまだ全然考えてないんですけど、アコースティックな要素も採り入れていきたいなとは思っています。あと、人間味のある音楽という方向だと、ヴォーカルをフィーチャーするというアイデアもあります。なんなら自分で歌うとか……いや、それはないかなあ(笑)」