INTERVIEW(2)――人間味を強く出したものにしたかった
人間味を強く出したものにしたかった
――さまざまなジャンルのものを聴いて、自然に吸収してきたということですが、特に刺激を受けたアーティストはいますか?
「グリッチ・モブという〈Low End Theory〉周辺のアーティストなんですけど、シンセの音をふんだんに使ってヒップホップ的なアプローチをするのがおもしろくて、〈こんなのもありなんだ!〉と衝撃を受けましたね。彼らはバンドものとヒップホップの要素を掛け合わせているところもおもしろくて、曲がすごく展開するんです。そういう部分も刺激的で。あとは、有名どころで言うとハドソン・モホークとかラスティー。彼らはゲーム・ミュージックとか久石譲さんに影響を受けて、すごく日本的なメロディーで攻めてきた。好きなコード感も似ているし、感覚的に近いと思いました。ダンス・ミュージックのなかでも、より人間的な方向に流れているアーティストが増えているなあと」
――同時多発的に近い音楽が出てきたと。
「そうですね。当時はMySpaceがすごく勢いを持っていて、有名無名関係なく、いろんな海外のアーティストとやり取りしていたんですよ。〈その曲、ヤバいね〉みたいな感じで音源を交換し合ったり。B・ブラヴォーとコラボしたEPをリリースしたんですけど、その楽曲もネット上でやり取りして、遊びの延長でお互いの曲をリミックスし合うことで生まれたものなんです。いまはメインとなるメディアがSoundCloudに移ってきてますが、そういうオンライン上の交流はますます盛んになっているし、日本も海外も関係なくなってきているように感じます」
――ここ数年、海外のアーティストやレーベルと積極的に交流されていましたが、それはSNSを介した流れだったんですね。
「〈DJで使いたいのでMP3を送ってほしい〉みたいなやり取りはしょっちゅうやってますね。それで、海外のFMでいつの間にか自分の曲がかかっていたり。今回のアルバムのアートワークはキリヤン・アングというスウェーデンのアーティストにお願いしたんですけど、これも彼のアートワークが好きだったので、お願いしたら引き受けてくださって。そうやって、音だけでなく世界観全体をオンラインで共有しながら、みんなで物を作ることができるのがおもしろいですね。なんとなくアーティストが集まっている感じですけど、こういうのが外からはシーンに見えるのかなあと」
――今回のアルバムはどういうところから作りはじめたのでしょうか。
「どうパッケージングするかを考えるところからですね。それで、メロディックで、感情的で、人間味を強く出したものにしたいと思ったんです。コンピューターで音楽を作ってると、ズレとかミスをすべて修正できてしまう。もっと言えば、いまやプログラムがあれば曲が自動的にできてしまうんですよ。そういう状況で人が音楽を作る意味を考えたときに、感情に訴えるメロディーとかコードとか、生身の演奏ならではのズレとかにあるんじゃないかと思い当たった。コンピューターで作るというスタイルは変えずに、そういう人間味を打ち出していくのはおもしろいんじゃないかと」
――まずテーマありきだったんですね。
「タイトルの『Vital Error』は〈必要なエラー〉みたいな意味なんですけど、これがアルバムのテーマになってますね。だから今回は、音のズレを修正する〈クオンタイズ〉という機能を使ってないところがたくさんあります。ズレていて気持ち悪いところもあるかもしれないけど、そこは意図的に残している。一方で、ものすごくコンピューターらしいテッキーな音も持ち込んでいて、そういう相反する要素を混ぜ合わせることで、矛盾を表現したかったんです」
――かなりコンセプチュアルに作り込んでいるんですね。
「これ以前にトップ・ビリンというレーベルから4曲入りの『Lightning Flash EP』を配信で出したんですけど、それはDJで使いたい曲を集めたものだったんです。今回はそれとはまったく違う作品ですね。テーマに向けて作った曲を集めました」
――つまり、今回のアルバムの曲は、いわゆるダンス・トラックとは切り分けて捉えているということですか。
「全然別物ですね。実際、DJにとっては使いにくい曲ばかりだと思います。4曲目の“Armored Unicorns”とか、なかなかキックが入ってこないから〈どこで繋ぐの?〉と思われるかもしれない(笑)。リズムも扱いにくい箇所が多いですし。今回は低音の出方も、正直なところそんなに気にしていないんですよ。だからベース・ミュージックとして捉えられるとちょっと違うかもしれないですね。むしろ、アルバム全体の世界観を感じ取ってもらえたら嬉しいです」
――とはいえ、ダンス・ミュージックの骨格をベースにした音楽ではありますよね。1曲目の“Loading”とかは、かなりフロア・フレンドリーな印象を受けましたし。
「ダブステップ的な曲ではあるんですけど、それでも〈展開が多いね〉って言われますね。ダンス・ミュージックってループを軸にしたものが多いし、基本的にミニマルじゃないですか」
――そうですね。その、どんどん展開していく曲構成もアルバム全体の特色です。
「そこでも感情に訴える人間味を表現したかったんです。ダンス・ミュージックとしての機能性は無視してしまったかもしれない(笑)」
――メロディーもトゥーマッチなくらいに叙情的なものが多いですね。
「できるだけ感情を揺さぶるものにしたかった。自分のスタイルは崩さず感情に訴えかける要素をどれだけ突っ込めるかが勝負でしたね。まあ単純に、自分がそういう叙情的な音楽が好きってことが前提になってますけど」