インタビュー

LAUREL HALO 『Chance Of Rain』



ベッドルームでシンセとの戯れに心を遊ばせてきた才媛が、リズムの快楽に誘われてダンスフロアの暗闇に降り立ち、夜ごとに繰り返した響宴の先で見つけたものとは?



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ブルックリン在住の女性プロデューサー、ローレル・ヘイローが名門ハイパーダブから送り出したファースト・アルバム『Quarantine』は、何よりもまず現代美術家である会田誠の作品〈切腹女子高生〉を使ったアートワークが強烈な印象を残した。だがもちろん、そのサウンドもヴィジュアルに引けを取らないインパクトを持っていたのは言うまでもないだろう。そのアルバムで聴くことができたのは、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーに代表される近年のドローン/アンビエント、ドリーミーなチルウェイヴ、そして刺激的なビート・ミュージックが緩やかに混ざり合ったようなサウンド。あるいは、当時よく比較されていたグライムスにも通じるような、ネット世代特有のスキゾフレニックな音楽性を持つベッドルーム発のシンセ・ポップと位置付けてもよかったかもしれない。何にせよ、『Quarantine』は、ハイパーダブの面目躍如といった現代性と先鋭性を兼ね備えた作品だったのである。

それから1年強、このたび届けられたセカンド・アルバム『Chance Of Rain』でも、どこか幻想的で夢見心地なムードは変わらない。だが、今回は低音の効いた激しい4つ打ちのビートが際立つようになり、あきらかに彼女がよりライヴ映えするサウンド――つまり、ダンス・ミュージックへと向かっているのが窺える。

「前作をリリースしてからはライヴ・セットを充実させることに時間を費やしてきたの。低音を豊かにし、よりテクスチャーのある音にすることで、さらにインパクトのあるショーにしたかったから。『Chance Of Rain』はいままでの私の音楽性の延長線上にあるけど、テクニカルな部分はより磨かれてる。そう、これはライヴでやってるような、抽象的で強烈でリズミカルで、かつ空間と形がはっきりしているような音にしたかったのよ」。

実はこの方向性の萌芽は、今年の5月にリリースしたEP『Behind The Green Door』の時点で見受けられた。ただ、その時は12インチだから現場で映える音にまとめたのかと思っていたが、どうやら彼女はそういうつもりではなかったようだ。このアルバムでは、デトロイト・テクノやUKガラージなどのリズムも貪欲に取り込みながら、より直接的に身体に訴えかけてくるような、ライヴ仕様のサウンドへと突き進んでいる。それも、「ライヴでは即興でヴォーカルなしの抽象的なクラブ・ミュージックをやってきたから」ということで、前作の大きな特徴のひとつでもあった、ケイト・ブッシュを思わせる神秘的な歌声を封印するほどの徹底ぶりだ。

「(今後は)リズムをもっとクレイジーにして、サウンド・デザインをさらに良くしていきたい」とも語っているので、彼女のダンスへの冒険はまだまだ続いていきそうだ。いかにもネット世代らしく、ファーストの時点ではベッドルームの微睡みを貪っていたローレル・ヘイローだが、いまはダンスフロアの暗闇にその身を委ねようとしている。



▼ローレル・ヘイローの参加作を一部紹介。
左から、デヴィッド・ボーデンらとセッションした2011年作『FRKWYS Vol. 7』、リミキサーとして参加したブロンズの2012年作『Blondes』(共にRVNG)、シーホークスのリミックス集『Phantom Sunset: Invisible Sunrise Remixes』(Ocean Moon)、ヴォーカルで参加したティーンガール・ファンタジーの2012年作『Tracer』(R&S)

 

▼ローレル・ヘイローの2012年作『Quarantine』(Hyperdub)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月25日 19:45

更新: 2013年11月25日 19:45

ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)

構成・文/小林祥晴