LONG REVIEW――でんぱ組inc 『WORLD WIDE DEMPA』
捩れてこじれて究極に愛らしい萌えキュン・ポップス
でんぱ組.incの音楽性を語るうえで欠かすことのできないのが電波ソング。いわゆる萌え系アニメや美少女ゲームの主題歌に多い、突拍子もないアレンジやネタ的な歌詞が散りばめられた、ぶっ飛んだ展開の楽曲を指す言葉で、それゆえにひとことでコレと説明できる特定のスタイルを持たないが、多くの場合、歌っているのはアニメ声の女の子で、BPMは早め。代表的な作品としては、TVアニメ「らき☆すた」のオープニング・テーマでオリコンの週間チャート最高2位を記録した“もってけ!セーラーふく”(でんぱ組.incも過去にカヴァー)がある。でんぱ組.incがそれら電波ソングを意識したグループであることはその名前からも明白で、ランティス時代に発表したシングル2作品の表題曲(“Kiss+kissでおわらない”“ピコッピクッピカッて恋してよ”)はどちらも件の“もってけ!セーラーふく”と同じ畑亜貴が作詞、そして桃井はることのUNDER17やULTRA-PRISMといったユニットで萌えソングを極めてきた小池雅也が作曲/編曲を担当。トイズファクトリーからの第1弾シングル“Future Diver”ではその2人に加え、ももいろクローバーZなどのアイドル仕事と並行して「みつどもえ!」の主題歌“みっつ数えて大集合!”などの電波なアニソンを手掛けてきた前山田健一を編曲に起用している。
但し、でんぱ組.incの場合は、そういった電波ソングの様式をそのままアイドル・ソングとして落とし込むだけではなく、あくまでその方法論、というか〈おもしろければ何でもOK!〉みたいなアティテュードを継承しているところが興味深い。彼女たち本来のコンセプトに即した電波ソング系の“でんぱれーどJAPAN”“でんでんぱっしょん”(両方とも作詞は畑亜貴)はもちろん、ビースティ・ボーイズ“Sabotage”をカタカナ読み英語で萌えカヴァーしたり、小沢健二“強い気持ち・強い愛”のカヴァーやかせきさいだぁ×木暮晋也コンビの提供曲“冬へと走りだすお!”で渋谷系にオマージュしたり……そういった突き抜けた発想は、まさに電波の賜物と言えるだろう。
また、オタク趣味からくる孤立やネトゲー廃人といったメンバーそれぞれの暗い過去を感動的なポジティヴ・ソングへと反転させた前山田による“W.W.D”シリーズも、でんぱ組だからこそ歌うことのできた楽曲だ。そして今回のアルバムには、それら6人組になってからのシングル表題曲がすべて収録されており、いわば〈ベスト・オブ・でんぱ組.inc〉と謳っても過言ではない内容に。“Future Diver”も現編成による再録ヴァージョンとなっており、“W.W.D”で歌われるところの〈マイナスからのスタート〉から着実に歩を進め、自分たちの〈電波〉なスタイルを研磨してきた6人の汗と涙の結晶が詰め込まれている。
もちろん本作のために用意された新曲もそれらに負けず劣らずのインパクトを放っている。なかでも蔦谷好位置が作詞/作曲/編曲に携わった“VANDALISM”は、キラキラ・シンセ+ツーバス連打の超速サウンドに唱歌や野球の応援歌のようなフレーズが挟まれるジェットコースター的な展開に圧倒されるはず。メンバーのいつもより萌え度を抑えたロッキッシュな歌声も素晴らしく、特に相沢梨紗の伸びやかな高音はゾクゾクするほど。“イツカ、ハルカカナタ”は乙女新党“もうそう★こうかんにっき”などで知られる電球(シクラメン)が作曲したもので、でんぱ組.incにしては珍しい、込み上げ系のストレートな良曲。アレンジには電球に加えてPandaBoYが関わっており、低音の厚みはDJプレイでも効果を発揮しそうだ。そして“なんちゃってシャングリラ”では、アイドル界隈ではチームしゃちほこ仕事で注目を集める浅野尚志を起用。シタールやタブラ、ミュゼット、ケーナのような音色がふんだんに盛り込まれたアゲアゲ・チューンで、ももいろクローバーZ“GOUNN”の歌謡曲的な雰囲気とはまた違った趣きの無国籍感がいかにも電波ソングらしい。
2年前のとある深夜、でんぱ組.incがTBSの音楽番組「ライブB」に出演しているのを観たとき、その強烈な個性ゆえの〈異物感〉が印象的で、いつの間にかTVに釘付けになっていた。思えば自分はその時に、彼女たちが発する楽しい怪電波をキャッチしてしまったのだろう。〈異物感〉も突き抜ければワン・アンド・オンリーの魅力となるわけで、それはポップスにおいて強力な武器になるはず。こんなにも捩れてこじれて究極に愛らしい萌えキュン・ポップスが生まれたことに感謝したい!
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