INTERVIEW(2)――歌でエモーションを表現したかった
歌でエモーションを表現したかった
――9年のブランクは、この作品の方向性にどれだけ影響を与えてますか。
「ブランクがないと、この方向には行かなかったかもしれないですね。歌ものをやってみようって発想は、あのままやってたら絶対なかったと思います。環境が変わったことで聴き方が変わって、歌ものをやってみたい、って気持ちになったんです。そのままやってたら、もっとPCで音楽を作る方向に行ってたんじゃないかなと思います」
――今回のコンセプトは歌ものだったということですか。歌で伝えられるものは楽器演奏だけとは違いますか?
「そうですね。歌は歌詞と連動してるんで、楽器と違う熱量が出せると信じてやってます。今回も、オケは淡々として、以前ならそこで、エモーショナルな部分を楽器で、ギターでやっていたところを、あえて歌でやりたいというのがありました。4枚目までは、〈歌は絶対エモーショナルになっちゃいけない〉っていう思いがあったんですよ。それはもう、僕のなかではカッコ悪いことだったんで。逆に今回は、歌で熱量を、エモーションを表現したかった。メンバーも、そうしてほしいと」
――それはかなり大きな転換ですね。
「そうですね。個人的にはもう、180度違うことをやってるつもりなんですよ」
――感情を込めるとカッコ悪いというのは。
「いやあ、若かったですからねえ。downyは最初ハードコアだったんですけど、ただ音を歪ませるだけ、みたいなのがイヤになった。シューゲイザー的なこともやり尽くされてるし。当時聴いてたのはヒップホップやエレクトロニカみたいなのばかりだったんで、そういうクールなものがカッコイイと思ってて、ロック的な歌のアプローチはカッコ良くないってずっと思ってたんですよ」
――でもdownyの音楽は、インスト主体のバンドが添え物的にヴォーカルを入れるのとは違って、むしろヴォーカルが入ると一段と昂揚していくような印象です。
「ええ、音階的な部分で厚みを出すということですね。もう一個楽器が増えるみたいな感覚なんですよ。ギターとユニゾンで歌が乗っても盛り上がらないけど、歌が新たな周波数と音階を加える、というのをめざしてた」
――ちゃんと計算して。
「そうですね。シンセやドラムでもいいところをあえて歌にして。ひとつの楽器のパートとして考えてたんです」
――そこでは、感情を込めずに冷静に音を積み重ねていくように歌うという。
「ほんと、そういう感じです」
――それが今作は一転してエモーショナルなヴォーカルに。
「歌ものとなると、そうなります。以前からメンバーにも〈もっと歌え〉って言われてたんですけど、僕は自分の歌は好きじゃなかったんですよ。でもこの9年の間に、そこは変わりましたね。僕にしかできないメロディーだったり歌い方はあるなと。それもっと誉れに思っていいのかなと思うようになった」
――最初は照れ臭くなかったですか。
「めっちゃ照れ臭かったですよ(笑)。ライヴになると〈音量下げて〉って、いまでも言っちゃうし。でもそういう楽曲を作ったんだから、いざ演奏するとなると、そういう(ヴォーカルの)熱量がないと成立しないですし」
――そうして歌に感情を込めるようになって、何が変わりました?
「どうですかねえ……いままでに比べるとシンプルになりましたね、やることも考えることも。“下弦の月”なんかでも、これで音楽は成立するんだなと。僕eastern youthが大好きなんですけど、日本語であんなに格好良くやられたら、勝てないじゃないですか(苦笑)。でも〈僕も自分なりのものをやってみよう〉と。それで人にカッコイイと思わせることができるなら、downyの新しいオプションとして武器になるなと思えるようになりました」
――シンプルだからって、今回のほうが技術的に簡単ってことはないですよね。
「歌ものなので、聴きやすくすることにみんな徹してるんですけど、演奏はたぶんいちばん難しい。さらっとやってるように見せてますが、やってることはめちゃくちゃ難しいですね。特にドラムは大変だったと思いますね。“曦ヲ見ヨ!”なんて、CDが飛んでるんじゃないかというようなリズムなんで」
――アルバム2枚分のマテリアルをボツにしたということですが、方向性の問題ですか?
「というより、〈もっとやれる〉という感じですかねえ。やはり5枚目、6枚目と作って今作が7枚目、というぐらいに進化してる手応えがありますね」
――9年のブランクがあるから、逆に自分のなかでハードルが上がったのかもしれないですね。その自分たちが考えた水準に達したのが、今回の11曲であると。
「そうですね。これを作り終わったあとも、もっとできるなという手応えはありますね」
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