INTERVIEW(3)――明るいエネルギーが強いアルバム
明るいエネルギーが強いアルバム
――頼もしいですね。今回の歌に込めたエモーションとはなんだったんでしょう。
「ざっくばらんに言うと、メンバー全員歳を取って寛容になった部分があったんです。子供もできて、人の優しさとかに触れて。いわば未来に向かっていくエネルギーというか。水中からキラキラ光る水面を見ているというか。人はやっぱり明るいほうに向かっていきたいわけじゃないですか。そういうエネルギーが強いアルバムだと思うんです」
――それは大きな変化ですね。
「バリバリにdownyやってた時は1日8時間練習してて。仲悪いわけじゃないんですけど、音楽のことしか考えてないから、お互い人間として接していないところがあった。そもそも音楽的な繋がりしかないところからバンドが出発してますからね。でもいまは仲良く和気藹々とやってます。お互いを尊重し合ってる感じがありますね。そういう精神的なものがどこまで音に出てるかわからないですけど、僕は今作はすごく暖かいアルバムだと思ってるんです。各々が生きてきた経緯が滲み出てるんじゃないかなと。なのでわりと明るいアルバムだと思うんですけど、どうなんでしょうね(笑)?」
――聴きやすくなってはいると思いますけど、downyの音楽がいまだに聴く者に緊張を強いる面があることは否定できないですけどね。
「(笑)そうですね、それはもちろん。それがないとできない楽曲なんで」
――もうちょっとユルい感じでやろうとは思わないですか。
「全然(笑)。全然ならないですね。楽曲を作った当初はもうちょっとシンプルなものであっても、そこから壊そうってことになっちゃうから」
――沖縄の海のほとりなんかに住んで音楽やってたら、たとえばもっとユルいジャム・バンドっぽいノリになっても不思議じゃないですが、全然そうはならないわけですね。
「ならないですよねえ。聴くぶんにはまた別ですけどね。プライベートのセッションならユルくやることもありますけど、作品として残すのであれば、絶対にやらないと思います。好きじゃないんでしょうね。聴くのは好きでも、自分にそういうのが向いてないってことでしょう」
――突き詰めてしまう。
「そうですね」
――曖昧なのが許せない。
「許せないんでしょうねえ(笑)。普段そんなこと意識してないですけど、こうやって質問されると気付きますね」
――でもある意味で〈感情〉って曖昧じゃないですか。波があるから。
「そうですね。でも楽曲に込めた思いみたいなのは、あまり変わらないかな。この曲のイメージを実現するために歌詞やメロディーを作る。つまりその曲が示す世界のための歌詞やメロディーなので、そこまで曖昧ではないかもしれないですね」
――THE NOVEMBERSの小林祐介さんとの対談で、〈『聞き手の解釈に委ねる』とよくいうけど、作り手の側は、これが正解なんだって答えをちゃんと持ってなきゃダメなんだ〉って話をされてましたね。
「はい。そう思います。逆に言うと僕にはそれしか表現方法がなくて。テーマがなく即興で歌って感情表現ができるような才能がないんだと思います」
――適当にその時の気分を鼻歌で曲にしちゃって、それが名曲になるような。
「僕にはそういう才能はないですね(笑)」
――音楽始めてからずっとそんな感じですか。
「はい、ずっとそうなんですよ。そういう感覚を持ったことがない。常に徹底的に作りこんでいかないと」
――そういうふうにストイックに自分を追い込んでいたら、そりゃ休みたくもなりますね(笑)。今後はコンスタントに活動を?
「そうですね。みんなのスケジュールが上手く合えば。来年はLIQUIDROOMのワンマンや、いろんな人たちがdownyのリミックスをやってくれたアルバムも出ます。それが落ち着いたらまた次の制作に入りたいですね。9年分のアイデアも溜まってるし」
――おお。じゃあ次がまた9年後ってことは……。
「……ないはずです(笑)」