LONG REVIEW――downy 第5作品集『無題』
あの緊迫感は継承しつつ、より明るい方向へ
downyは常に革新的で、異質だった。2004年の活動休止まで、彼らはその音楽の独自性を絶えず突き詰め、マス・ロックやエモ、クラウトロック、アブストラクト・ヒップホップ、エレクトロニカ、ポスト・パンクなどの要素を咀嚼/吸収。そのうえで、ピリピリと緊迫した、ダウナーで密室感のあるサウンドを鳴らしていた。
そして、そんな演奏と、抽象画や写真、アニメーションなどを用いた映像を完璧に同期させたライヴ。いまでこそステージ上でのメディア・アート的な映像演出は珍しくないが、当時彼らがやっていたアプローチは非常に先進的だった。そのプレゼンスは、当時の音楽シーンに堂々と屹立していて、それゆえ孤高な存在でもあったと思う。
そんな彼らの9年ぶりのニュー・アルバム(タイトルはなく、いつも通り『無題』)。残響音が深い霧のように立ち込め、その輪郭は曖昧としながらも、不穏な響きを撒き散らすひしゃげたギターや、変拍子や緩急をふんだんに採り入れて複雑にうねるベースとドラムスのゴリゴリしたリズム・アンサンブルも、変わらないdownyの持ち味だ。哲学的で抽象性の高い歌詞(というより詩)は、以前よりちょっと明るくなったよう。全体では音数や手数が増えたようにも聴こえるが、同時に歌やメロディーが前面に出ている。downyはさらなる進化を遂げ、またも比類のない音世界を作り上げた。