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インタビュー

INTERVIEW(2)――瞬間さえ的確に突いていればいい

 

瞬間さえ的確に突いていればいい

 

――その思いがアルバムに反映されたわけですか。ラップしていく面で意識したことなどはありますか?

「日本のラップって1拍目と3拍目にアクセントを置くから、裏の拍の弱さがある。俺はアタックじゃなくて引きっていうところにすげえ気を使ってて。それがグルーヴだと思うし、詰めてくのももちろん大事なんだけど、隙間も意識した。ラップは楽譜もないし、楽器ができなくてもできる音楽っていう考え方をやめたほうがいいと思いますね。それの成れの果てがいまだから。むしろラップってリズムだけでも楽譜にするべきじゃないかと思うし、コードもやっぱりあるし。楽器がなくてもできるんだけど、ホントはラップが楽器にならなきゃできないはずなんですよ。俺の場合、ラップを音として捉えてる部分が良くも悪くも強いから、そこに聴きたい音楽、見せたい形式がフィットした」

――前作から約1年半を経てのリリースとなりましたが。

「アルバムって、ホント詰めればぶっちゃけ2週間でできると思うんですよ。でも(気を)抜いてたかっつったらまったく抜いてない。キツい状況でやってたのになぜかここまでかかったし、俺のなかでは凄まじく時間がかかったと思ってて。それこそ空想物語か、俺が見た景色かっていうのがすごく重要で、空想物語になったらそれはヒップホップじゃないと思ってて。そこを突き詰めてやっていきたいなっていうところで今回はバッチリ変わってる。だから、いいか悪いかは聴いてもらった人の判断ですけど、〈このアルバムはどういうアルバムなんですか?〉って訊かれたら〈俺ですね〉としか言えないぐらいすごいパーソナルな曲が多いです」

――ただ、パーソナルな曲が多いと言っても、ライフ・ストーリーやある特定の対象に向けて歌った曲が多いってことではないですよね。比喩表現やそれに類する表現も随所に盛り込まれてるし。

「絵だったらやっぱりモネが好きなんですけど、〈印象派〉っていう言葉自体も好きで。言葉で説明できるものっていうのは言葉でしかないじゃないですか。説明しないほうがおもしろいっていうのはすげえある。説明しちゃうことでつまんなくなる、価値が下がることって普通にあるし、ずっと欲しかったものがそれでゴミになったりもする。恋愛もいっしょで、俺、結構そういう体験が多くて。モノになんないからおもしろいし欲しいんですよね」

 

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――そういう意味でも、曲のなかで具体的な表現と抽象的な表現が絡み合ってる。

「そうですね。絵でも景色でもそうですけど、景色も今日しか見れない、この時間しか見れないっていうことがいっぱいある。住んでるのが湘南で海が近いから、この日のこのタイミングでこの景色を見てるのは俺と数人だけだぞ、っていう瞬間が結構あるんですよ。夜中の2時ぐらいとかに月が出てて、コンビニに行くだけなんだけどヤバイ、みたいな。それってもう、ホントに瞬間じゃないですか。それの何がいいんですかって言われたら説明できなくもないけど、説明したら一気にチープになる。だからこそ、目に見えないきれいなもの、言葉にできないもの、説明しきれないものっていうのを大事にしたいです」

――その点から言えば、説明しきれないものにも言葉を費やしていくラップはむしろ逆にチープにもなりかねないわけですよね。曲作りをしていくうえで着地点は決まっているんですか?

「それは曲ごとにありますし、アルバムでもありますけど、瞬間さえ的確に突いてればいい。例えば(電車で)渋谷に来るとしたら、乗り換える駅だけ押さえてればいけるじゃないですか。全部説明されてるラップってたぶん各駅停車なんですよ。俺はそうじゃなくていいですね。どういう経路で行ってもいいから、結局最後まで辿り着いてればいい。線路が違っても、答えはいっしょだし」

――今回のセカンド・アルバムでもラップに説明しきれない余白がある点は前作から引き継がれてると思います。

「もちろんファーストからブレない部分としてそれはありますね。精神的にブレて、メンタルの部分は思いっきり変わったけど、ラッパーとしては一切ブレてない。ファーストは作品的だけど、今回は自分が世に出るアルバムだってことを意識してた。世に出るアルバムって人によって違うと思うけど、俺にとってはこれだと思う。自然と自分の育った環境を歌った曲で終わっていて、他の人が自分を重ねて聴けるものになったっていうのは大きいですね」

――そういう要素は増えたかもしれません。アルバムのアイデアはどのように発展させていったんですか?

「俺はマイケル・ジャクソンのPVをずーっと観て育ったから、(マイケルの死が)すげえショックで。人は偉大であれば偉大であるほど、不老不死説みたいなのってあるじゃないですか。だけど、マイケルもやっぱり死ぬんだって。そういう気持ちを自分の祖父母にも俺は持ってたんですけど、お爺ちゃんがどれだけ歳とったかを物凄く具体的に見ちゃったのもショックで、そしたらすげえ怖くなってきて。俺のアルバムもなんかこのタイミングしかないぞと思った。〈同じ、同じ、でも違う〉っていうタイトルのワード自体にもその気持ちは表れてるんですけど、いましか言えないことってすごい大事だなあと思って」

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2010年06月16日 18:00

更新: 2010年06月17日 19:06

インタヴュー・文/一ノ木裕之