INTERVIEW(3)――シンプルに〈良いね〉って言ってほしい
シンプルに〈良いね〉って言ってほしい
――アルバムの具体的な話を伺います。これまでのお話に繋がりますけど、ピアノ・トリオというジャズ的な編成で演奏していながら、いわゆるジャズとは異なる音楽ですよね。Schroeder-HeadzのMySpaceのフレンド欄にはエリック・サティとかマックス・リヒターが入ってましたけど、そういうクラシック~現代音楽の人たちの作品といっしょに並べるとしっくりくるように感じました。
「マックス・リヒターはポスト・クラシカルの流れの人だと思うんですけど、やってることがすごく健康的だと思うんですよ。難しい顔をして難しい音楽をやるんじゃなくて、本当に気持ち良い音楽を音楽的知識も上手く使いながら作ってる。自分もそういうものを作りたいと考えてます」
――非常にリリカルで美しい音楽ですけど、メロディーはシンプルでとても大らかなのが印象的でした。
「バンドで歌っていたくらいなので、口ずさめるメロディーが好きなんですよ。それをイージー・リスニングにならないよう、どう聴かせるかということをすごく考えてます」
――確かにシンプルなメロディーをかっこよく聴かせるのは難しそうですよね。童謡みたいになってしまう危険性もあるわけで。
「以前、仕事で〈かっこいいリチャード・クレイダーマンみたいにしてください〉って依頼されたことがあるんですけど……むちゃくちゃな注文だなと思いましたよ(笑)。やっぱり、ピアノで良いメロディーを弾こうとすると、単にクサいものになりがちなんですよね。かといって複雑なハーモニーを入れたりすると、どんどん難解になってしまう。僕はサティとかドビュッシーとか19世紀の作曲家がすごい好きなんですけど、彼らはその両方を持ってるんですよ。現代音楽の流れだと、その後は和声が崩壊していっちゃうんだけど、彼らはギリギリ調性が残ってる。そのバランスが美しい」
――そういうバランス感覚を意識するのは、アヴァンギャルド指向を持ち合わせてるからこそなのかなと。
「ああ、そうですね。エルメート・パスコアールというブラジル音楽の鬼才がいますけど、ああいう前衛的なレジェンドに対する憧れはすごくあります。パスコアールはピアノのなかに自分の靴を放り込んで弾いたりするんですけど、この間それを真似してやったらすごく怒られました(笑)。ライヴではそういう、ちょっと破綻してるような勢いのあることをやってみたりしているんですよ。そっちで見せられればいいかなと。音源は何度聴いても楽しめるものを作りたいですね」
――なるほど。
「シンプルに〈良いね〉って言ってほしいんですよ。リリカルな気持ち良さを追求したい。ユニット名もそういうところから付けましたし」
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