INTERVIEW(4)――〈前提〉から逃げたい
〈前提〉から逃げたい
――(笑)。直感、感性に従順であることから生まれるバンド・サウンドと豊潤な言葉の組み合わせも、このアルバムの特徴ですよね。最後に『Family Record』というタイトルについても訊きたいのですが。
波多野「あのー、えーと、そうですねえ。意味はあるんですけど、ただ、これは『Family Record』なんです。(目の前にある紙コップを持ち上げて)これが紙コップであるように、このアルバムも『Family Record』なんですよね。だから、額面どおりに受け取ってもらっていいですよ」
―― ……なんか5歳の息子と話してるような気がしてきた。
波多野「あ、それは嬉しい」
――〈なぜモノには名前があるのか〉っていうレヴェルの質問するじゃないですか、その年頃の子供って。
波多野「あの、〈このタイトルの意味は?〉っていう質問って、それは先入観だと思うんですよ」
――まあ、そうですよね。当然、意味があるはずだっていう。
波多野「そういう前提ってすごく多いんですよね、音楽には。僕らはその前提から逃げたいというか。それは別に〈こうあるべき〉っていうものに反抗してるわけではなくて、前提を一旦取り外したところから始めてるんですよ。だから、すごく説明しづらいんですよね」
山口「うん」
波多野「映画とかもそうじゃないですか。〈見どころは?〉なんて、そんなの全部に決まってる」
――じゃあ、たとえばラジオなんかで〈今回のアルバムの聴きどころは?〉って訊かれたら……。
波多野「そういうときはお決まりの答があるんです」
福井「あるね(笑)」
山口「〈24小節のハイハットの裏の……〉」
波多野「本気にされちゃうと〈ああ、申し訳ない〉って気持ちになるんですけどね(笑)。ただ、やってること自体はオーソドックスなんですよね。なぜ〈前提〉を省きたいかというと、それは不純物だからなんです。それだけなんですよね」
――でも、前提があったほうが、遥かにやりやすいでしょ?
波多野「うん、そう思います。それが悪いわけでもないんですよね、決まった場所に決まったものがくるっていう気持ち良さもあるし。ただ、それは他の方にお任せしたいなって」
――つまんないから?
波多野「いや、ちょっと忙しいので(笑)」
――そのスタンスを貫きながら、オーディエンスが増えているっていう状況は素晴らしいですよね。
山口「そうですね。観に来てくれる人が増えて、嬉しくない人はいないから」
波多野「うん。健全にやっていけたらいいなって思ってます」