インタビュー

LONG REVIEW――People In The Box 『Family Record』

 

People In The Box_J170

全12曲という、これまでのPeople In The Boxの作品のなかで最大の曲数を収録した大作であり、歌詞はまるで長編の文学作品のよう。しかし、決して重厚な作品というだけではなく、3ピースの限界に挑むようなポスト・ハードコア譲りの複雑な曲展開と、徹底的にポップなメロディーからは、明快なエンタテイメントとしての資質も感じられる。聴き終えた後には充足感と心地よい疲労感、そして心にうっすらと引っ掻き傷が残るような作品で、歌詞による善と悪の境界線が揺らぐような背徳感も合わせて、漫画だったら浦沢直樹の「MONSTER」、映画だったら「ダークナイト」あたりがパッと浮かんだ。言うまでもなく、傑作ということだ。

また、これまで彼らの音楽性は〈ポスト・ロック以降の歌ものギター・ロック〉という流行りものの範疇に括られることもあったが、本作のヴァラエティーに富んだ内容とスケール感により、彼らがそういったバンドとは一線を画していることが明確になったように思う。エレクトロニック・ミュージックも現代音楽も通過した後のような感覚で鳴らされる広大なサウンドスケープが印象的な、8分半に及ぶ本作のクライマックス“JFK空港”は、間違いなく彼らのひとつの到達点である。

先日、凛として時雨がオリコン・チャートの1位を獲得して話題となったが、次は同じ3ピースの彼らにそのポジションをめざしてほしい。本作はその可能性を十分に感じさせるし、きっと彼らにはその野心もあるだろう。

 

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2010年10月06日 18:00

70517