インタビュー

LONG REVIEW――カジヒデキとリディムサウンター 『TEENS FILM』

 

カジヒデキとリディムサウンター_J170

昨年秋に発表したアルバム『Days Lead』において新感覚のネオアコを提示したRiddim Saunterと、90年代初頭より日本のネオアコ・シーンの代名詞的な存在であり続けているカジヒデキ。ありそうでなかったこの2組によるコラボレーションが実現した。

カウンターの連続と、そのカジュアル化――これは本誌の最新号に掲載されている日本の新世代ロック・バンド特集〈ロクナビ2011〉のキーワードだが、そういった現象は、当然ながらジャズでも、クラシックでも、ポップスでも……ロック以外のシーンでも繰り返し起きている。そして、ここ数年のネオアコ作品を振り返るとき、個人的に真っ先に思い浮かべるのが文頭のアルバムだ。

彼らは前作『Think, Lad & Lass』においてテムズ・ビートに接近しており、『Days Lead』はそこを通過した上で80年代のネオアコに新しい解釈を施したアルバムだった。その逆走ぶりにおもしろさを感じたのだが、同作のタイミングでTA-1とKEISHIに取材を行った際、二人とも〈同作の制作の時点で初めて80年代後半~90年代初頭頃のネオアコに触れた〉といった発言をしていて、妙に納得した記憶がある。彼らもまた、音楽に出会う順番を選べる世代なのだ。

その一方で、カジヒデキは日本の音楽シーンにおける最たるトピックのひとつ〈渋谷系〉〈ネオアコ・ムーヴメント〉の渦中にいた人である。洋楽の――とりわけUKの動向に敏感に反応した国内アーティストが同時多発した結果としての〈現象〉だったが、彼の音楽に対する取り組み方は、その当時から現在に至るまで一貫している。その時々の同時代性を持ち前のリスナー気質で捉え、自身のポップセンスとぶつけることで記名性の高いギター・ポップ~ネオアコ作品を世に送り出してきているのだ。

そんな両者がアイデアを出し合って、このたびアルバムを完成させた。この『TEENS FILM』を聴いてとっさに呼び起こされたのは、80年代後半~90年代に良作をリリースしてきたネオアコ・レーベル――例えばチェリー・レッド、サラ、エル、エレファント、シエスタあたり――の、あのキラキラ輝いていてどこか切ない質感……のようなもの。正確に言えば、そんな質感にいまの空気感を纏わせた音像がここにはある。

〈煌めき〉という言葉からイメージする音は人それぞれだと思うが、本作には恐らく、すべての聴き手に対応できるヴァリエーション豊かな〈煌めくサウンド〉が封じ込められているのではないか。また、それは同時に、カウンターを繰り返してきたポップ・ミュージックの――カジヒデキとRiddim Saunterのディグの歴史を音像化したものでもある。インタヴュー中の言葉を借りれば、ドラムスとアルゾ&ユージーンが同じ俎上に乗っている。そういうことだ。

フェイヴァリットを挙げるとすれば、“River River”と“レモンとオレンジとスクラップ・ブック”。本作のなかでもこの2曲は特に、ある一部分でどうしようもなく〈カジヒデキ〉であり、別の一部分でどうしようもなく〈Riddim Saunter〉であり、全体としてどうしようもなく〈カジヒデキとリディムサウンター〉だなあ、と思う。ホント、すごいアルバムだ。

 

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掲載: 2010年10月27日 18:01

更新: 2010年10月28日 14:11

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