INTERVIEW(2)――毎回イメージと違うものが出来上がる
毎回イメージと違うものが出来上がる
――今回ふたりは、どんなアルバムにしようって話し合っていたんですか? ……というか、いつもそういう相談はします?
佐野「しないです」
佐藤「しないね。毎回その時その時で僕の頭のなかにはプランがあるんです。テーマやコンセプトのような大きなものじゃなく、こだわりポイントみたいなものがその都度違っているんですね。まぁ大抵は前回失敗したことを、〈次こそは次こそは〉って思いながら試してみる。毎回そんな感じです。僕らはとにかく出来た曲をそのまま録るだけなんです。やっぱり出来た曲しか録れないですからね(笑)。どんな音作りにするかってことの〈どんな〉の部分は毎回さほど変わらないんですけど、なかなか理想とする音に近付かないんですよ。そして毎回イメージと違ったものが出来上がる。それが、残念ながら個性ってことになるんでしょうね」
――(笑)。
佐藤「どういうふうにすればNYサウンドに近付けるのかとか……いや例えばの話ですよ、そういう場合は音作りの方程式というか方法論を持った人とやればいいんでしょうが、どうも人から教わることが苦手で。わかんないくせに自分で無理矢理やってしまうことが多い。そんなわけで毎回試行錯誤を繰り返しているんです」
――例えば曲が出来て、佐野さんに伝えるとき何か説明をしたりしないんですか?
佐野「それもあまりないです」
佐藤「歌に関してはいちばん説明がないかも」
佐野「曲を受け取って、漠然とイメージを思い浮かべながら〈こんな感じ?〉って訊くと、〈そうそう〉ってなるときもあります」
佐藤「自分が作った曲ですから、節回しとか自分のなかに正解はあるんですが、彼女が受け取ってイメージしたものを大事にしたいですから。そういった意味でのコミュニケーションはあまり取らない」
――でもいつだって佐野さんは最高の回答を返していますよね。今回のアルバムでもすごくいいコミュニケーションが働いているなぁ、って印象なんですけど。
佐藤「嬉しいですね」
――ここまで着実にキャリアを積んできたおふたりだけど、例えば、頭に思い描いたイメージを具体化させるスピードが速くなったなぁ、って感じたりすることはある?
佐野「ありませんねぇ」
佐藤「今回は7枚目のアルバムですけど、僕は過去のアルバムはほとんど聴かない。嫌になってくるので。昔のものを聴くと、いまより遥かにわかっていない状態で作っていて、試行錯誤の跡がはっきり見えるんです。ただスキルアップしていろいろとできるようになった現在、物事がよく見えるようになっているかと言えばそうではなくて。以前よりも天井の高さがいっそうわかるようになって、全然理想に近付けている感じがしない。毎回〈よし出来た!〉と思っても、すぐに〈まだまだだ〉と気付いてしまう」
佐野「お釈迦様の掌を……」
佐藤「そう、転がっているような感じですよ。日々考えているんですけどね。どうやったら良い曲が出来るか、とか……いや、やっぱりあまり考えていないかな(笑)。どう良くなるというものでもなくて、要は思いつくかつかないかだけのことだと思うし。だから日々、良いものが思いつけばいいな、と考えているんですが」
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