高橋優 “ほんとのきもち”
[ interview ]
〈歌を歌わなければ自分の存在価値はない〉という切実な危機感と、歌を通じて人と繋がりたいというポジティヴな衝動が、情感豊かなメロディーと饒舌な歌詞のなかで絶妙なバランスを保ちながら特別な感動を呼び覚ます。高橋優はそんな歌を書くシンガー・ソングライターだ。7月のデビュー・シングル“素晴らしき日常”が大きな反響を巻き起こし、東京メトロのCMソング“福笑い”が広く深く浸透していくなか、本日リリースされたセカンド・シングル“ほんとのきもち”は、日本テレビ系土曜ドラマ〈Q10〉の主題歌に抜擢。さらなる飛躍への準備はすでに整っている。
とっさにギターを持って路上に出た
――新曲の話をする前に、高橋優という人間のことをいろいろ訊かせてください。曲を作りはじめたのは、だいたいいつ頃ですか。
「高校2年生なんで、16とかですね。高校の時はBRAHMANのコピー・バンドでヴォーカルをやってたんですけど、やればやるほど楽しくなくなっていってしまったんですよ」
――それはなぜ?
「好きなことと、真似をすることとは違うと思っちゃったんですね。結局観に来てくれる人もクラスメイトしかいないような感じだったから。コピーやるのがあたりまえみたいな文化のなかで、もし本当のBRAHMANがここにいて、隣で歌い出したらみんなそっちを観るじゃないですか。中学校の時は学祭でGLAYをやりましたけど、第一線でやってる人たちはみんなカッコ良い。でも真似するのはカッコ良くないと思ってしまったんです。誰かに似ててもいいから自分で曲を作ってみようと思ったんですよね。恥ずかしくて誰にも聴かせられなかったですけどね、最初の頃は。自由帳に詞とコード譜を書いて、引き出しにしまうだけで」
――バンドではなく、自分だけの表現として。
「はい。でも1回だけバンドでやったんですよ。卒業間際に、コピーをやってた仲間に勇気を出して曲を聴かせて、覚えてもらってやったら、全然盛り上がらなかった(笑)。〈誰のコピー?〉みたいな感じ。僕としては、その文化を変えていくことが大事だと思ったんですけど、みんな〈コピーのほうがいいよ〉っていう感じだったから」
――それで、地元の秋田を離れて大学は北海道に行くんですよね。なぜ北海道へ?
「秋田って、みんな東京に行くんですよ。あからさまでしたね。3年間共に過ごした仲間たちが、〈東京に行きたい、東京に行きたい〉って言い出した時には、〈どうしたんだお前ら〉って言いたかったです。僕は秋田に残るか、誰も知らない土地に行くことしか考えてなくて、東京に行くことは絶対に考えてなかった。で、北海道に行っちゃったんです」
――そこで何を見つけたんですか。
「北海道ではまず、路上ライヴの日々でしたね。それまではずっと秋田のド田舎で、どれだけ歌っても誰にも文句を言われなかったのに、六畳一間の木造アパートで、歌ったら隣に聴こえちゃう。歌うことが自分のなかでアイデンティティーになりかけてたのに、歌う場所がない。それでとっさにギターを持って路上に出て、狸小路という場所でやり出したのがきっかけです。無我夢中で衝動的に、やらなきゃ始まらないっていう感じ」
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