INTERVIEW(2)――誰かと繋がりたい
誰かと繋がりたい
――路上はいろいろと大変なことも多いですけど、苦労もあったんじゃないですか。
「でもいちばん最初に立ち止まってくれたのが、注意する人じゃなくて、歌を聴いてくれる人だったというのが大きかったです。こっちはとりあえず歌いたいと思ってやってるから、聴いてもらいたいかどうかなんて最初は考えてないんですよ。そしたら女の子二人が立ち止まってくれて、ひそひそ話したりしながら聴いてるんですよ。歌ってる最中に、これは馬鹿にされてるんだろうか、それとも純粋に聴いてくれてるんだろうかって考えてたんですけど、終わったら〈いつもここでやってるんですか?〉って訊いてくれたんですよ。それが土曜日で、〈毎週ここでやってたりしますか?〉って言うので、強がって〈はい、毎週ここでやってます〉とか言っちゃって(笑)。〈じゃあまた観に来ます〉って言ってくれて、それでもう一気に舞い上がりましたね」
――いい話ですね。
「もう一つ、これも路上ライヴをはじめて間もない頃ですけど、ある日、遠くから観ててくれた子がいたんですよ。遠くにいるんですけど、絶対僕の歌を聴いてくれてる。その日はそれで終わって、1週間後の土曜日にまたやったんですけど、その時は自分で趣向を凝らして、ノートを1冊用意したんですよ。〈好きなことを書いてください〉って。それを書いてくれてる間は立ち止まってくれるし、それをまた誰かが見てくれるかもしれないし、そうやってお客さんを増やしたいと思ってたんですよね。ノートに何か書いてもらえば、自分の歌が客観的に理解できるかもしれないと思ったし。そしたら、先週遠くで見てた子がスーッと近付いてきて、僕が歌ってる最中にノートに何かいっぱい書いてくれて、パッといなくなった。あとで見たら、〈初めて観た先週の土曜日から、いつ歌ってるかわからないから、毎日ここに来ました。ようやく1週間ぶりに会えました。次からは土曜日に来ます〉って書いてあった。それを読んだ時に鳥肌がバーッと立って……みたいな経験が、最初のほうに多かったんです」
――それは勇気出ますね。
「そのあとは辛い経験がどーんと出てくるんですけどね(笑)。でも最初のほうに嬉しいものを与えられたら、〈そういう喜びが待ってるんだ〉と思うじゃないですか。そういう喜びを求めてずっとやってましたね」
――お話を聞いていると、いわゆるアマチュアがいつかプロになりたいとかCDを出したいとか、そういう動機とはちょっと違う気がしますね。まず歌わずにはいられない衝動があって、聴いてくれる人と出会って、それが支えになって、一歩ずつ先へ進んで行くみたいな。
「もっと根本には、自分は誰かと繋がりたいっていうのがあるんですよね、たぶん。こうやって向き合ってしゃべったり、いっしょにお酒を飲んで笑ったり、そういう瞬間がどうしようもなく好きなんですよ。でも例えば向こうがすごくしっかりした人で、何かをやっている人で、僕が何もない人だったら釣り合わない、とか考えちゃう。小学校の終わり頃からそれをずっと悩んでいて、サッカーが得意な奴とか頭がいい奴とか、いろんな奴がいるけど、〈自分には何もないんじゃないか?〉思っていたなかで、結局一心不乱に歌を歌うことになったのは、〈自分にあるものは歌なんじゃないか〉と思ったからなんですよね。だから歌ってないと気が済まないし、歌を歌うことでようやく自分の存在が意味のないものじゃなくなるというか、歌を歌うことでようやく自分はここにいていいんだなとか、思うようになった。表現したいということのもっと奥にそういう、誰かといっしょにいたいという気持ちがある気がします」
――その気持ち、いまも変わらないですか。
「変わらないですね。こうやってシングルを出させていただいたりとか、いろんなことをやらせてもらってますけど、それで何がいちばん嬉しいかといったら、新しい出会いがあったりとか、お話しすることがないはずだった人と、自分が歌を歌うことでお話できることになったとか、そういうことが本当に嬉しくてしょうがないです。自分の周囲にいる人と話すこともすごく楽しいし、そういう人たちが喜んでくれる歌が歌えなければ、相変わらず僕はここにいる意味がないと思いますね。聴いてくれる人ありきで曲を書いてますから、共感して泣いてくれたり笑ってくれたり、もっと聴きたいと思ってもらえるものを作りたいです」
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