インタビュー

LONG REVIEW――高橋優 “ほんとのきもち”

 

高橋優_J

ニュー・シングル“ほんとのきもち”の取材で高橋優に会ってからすでに1か月ほど経過しているが、いまだに強く記憶に残っているのは、彼の眼差しだ。単に相手の目を見て話す、という次元ではなく、彼は会話しているあいだじゅう、訊き手から視線を外さない。直接言葉を交わしているインタヴュアーのみならず、横で黙って話を聞いている編集者(筆者)までも、交互に真っ直ぐ見つめながら言葉を紡いでいく。そんな彼の所作は、そのときの会話の内容――ひいては彼の作る歌が纏っている切実さと、とてもリンクしているように思った。

インタヴュー中でも語られているように、高橋優というシンガー・ソングライターの原動力となっているのは、〈伝えたい〉〈誰かと繋がりたい〉という気持ちである。

〈いつか食べたパスタの上にのっかってた具材は何だった〉のか。〈いつからか続いている戦争の果てにどんなことが待っている〉のか。〈テレビの中で怒鳴り合っているあの人たちに何があった〉のか。〈少し気まずくなっていた友達に今電話したら何を言われる〉のか――例えば、ふとした疑問を大量に投げ掛けたうえで、ただ一つ確かなこととして〈君が好き〉と告げるタイトル曲。

例えば、セクハラ教師と幼児虐待をセンセーショナルに描写した挙句、〈キレろよ女子高生/その学校の校訓蹴飛ばして穴をあけろ〉〈キレるよ少年も/無垢な瞳も淀んでいくよ/バカ社会に〉と声を限りに言い放つ“こどものうた”。

現実感のある/なしに関わらず、自身が見聞きしたもの、そこで感じたこと/思ったことを歌へと変換し、吐露することで彼は他者と繋がろうとする。聴き手がどう受け止めるかは別として、恐らく歌が生まれた段階では、そこにメッセージ性はない。だが聴いていると、ただただ胸が騒ぐ。心が動く。そこで聴き手と高橋は繋がる。迷うことなく連ねられる言葉の潔さ、その一心不乱な佇まいで発せられる歌には、爆発的なエネルギーが宿っている。

また、ストリート・ライヴからデビューのきっかけを掴んだだけあって、ギターと歌だけでも十分に耳を惹き付ける言葉とメロディーとの一体感が素晴らしい。但し、本作に収録された3曲はすべてバンド・アレンジとなっていて、サウンド・プロデュースを担当したのは元SMILEの浅田信一。壮大なストリングスを絡めてドラマ性を高めた“ほんとのきもち”、ゆったりしたピアノがノスタルジーを誘う“シーユーアゲイン”、ドライヴィンなハモンド・オルガンがアコギの性急さに拍車をかける“こどものうた”と、どれもいい。

私は路上演奏をしている人の歌に足を止めたことはない。けれど、道行く途中でもしこんな歌と出会ったとしたら、間違いなく立ち止まるだろう。それほどに強い吸引力を持った言葉とメロディーが、ここにはある。

 

カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2010年11月10日 18:00

更新: 2010年11月10日 19:26

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