Any 『宿り木』
[ interview ]
RADWIMPS、藍坊主などを送り出したことでも知られる〈YHMF2007〉でグランプリを受賞。渋谷、下北沢、横浜を中心にライヴ活動を行いながら、まっすぐな〈歌〉を届けてきたスリーピース・バンド、Anyがファースト・アルバム『宿り木』を完成させた。真摯に自分と向き合いながら嘘のない感情を描いた彼らの歌は、工藤成永(ギター/ヴォーカル)の言葉どおりに〈自分の人生をきちんと生きたい〉と思っている人たちの心を強く揺さぶることになるだろう。リアルなエモーションと美しく重なるメロディー、片寄明人のプロデュースによるシンプルで奥深いバンド・アンサンブルにもぜひ、注目してほしい。
自分にできることをやろう
――高校生のときに結成したそうですが、もともと友達だったんですか?
大森慎也(ベース)「ヴォーカルの工藤くんとは同じ高校で、音楽部に所属してたんです。それぞれ違うバンドをやってたんですけど、工藤くんのバンドが大会〈YHMF2006〉(横浜ハイスクールミュージックフェスティバル)で優勝して。そのあと〈部活じゃなくて、外でいっしょにバンドをやらないか〉って声を掛けてくれて、そこで結成したのがAnyなんですよね。次の年はAnyとして同じ大会に出たんですけど、そのときにドラムの(高橋)武はほかのバンドで出場してたんです。上手いって有名なドラマーだったから、〈いつか、いっしょにやれたらいいね〉って話してて。そのあと、元のドラマーが抜けて、いまの3人になったって感じです」
――なるほど。普段もいっしょに遊んだりしてました?
工藤「いや、遊んでないですね。(大森とは)途中まで帰りの電車がいっしょだったんですけど、そこで話をするくらいで。いまもいっしょに遊ぶってことはないですねえ。遊ぶ理由がないというか」
大森「理由が必要なんだ?」
工藤「(笑)遊ぶとしても、ゲームくらいでしょ」
高橋「そういえば1回、工藤くんの家でゲームやったことあるよね」
――(笑)大森さんは、工藤さんの曲に対してどんな印象を持ってたんですか?
大森「すごいなって思ってました。高1のときは、音楽部ではバンドじゃなくて、アコギ5人くらいで演奏するっていうのをやってたんですけど……」
工藤「最初はバンドをやらせてもらえないんですよ、先輩が厳しくて」
大森「だからアコギなんですけど(笑)、そのときから工藤くんはヴォーカルをやってて。歌と声がとにかくすごくて、〈いつかいっしょにバンドをやりたい〉って思ってました」
――しかも、そのときからオリジナル曲も書いていた。
工藤「高2でやっとバンドを組めることになって、大会に出るときに初めて曲を書いたんです。中学のときから、歌詞だけはずっと書いてたんですけど、ちゃんと曲にしたのはそのときが最初ですね」
――それが2006年ですよね。結果的には2年続けてグランプリを獲得したという。
高橋「2007年のときは僕も別のバンドで出場してたんですけど、結果発表の前から〈グランプリはAnyだな〉って思ってました。いい歌、いい歌詞っていうのはすごく噂になってましたからね。一応、一方的にライヴァル視してましたけど……」
――すごい歌を歌う人がいるなって思ってた、と。
高橋「はい。僕はドラマーだから、〈自分だったら、こういうふうに叩くのにな〉とか考えてて。いま、それを試せるのが嬉しいんですよね」
工藤「……僕はそのとき、単純に〈楽しいからやってる〉っていう感じだったんですけどね。そこからさらに自我に目覚めて、いろんなことを意識しはじめて。だって、〈もっと上手いバンドはたくさんいるし、カッコいい曲もあるのに、なんで自分たちがグランプリなんだろう?〉って思ってましたから」
――自分の曲に対する確信が持てなかった?
工藤「そうですね。ただ、そのときから〈歌だけはちゃんとやろう〉って思ってたんです。そうじゃないと、僕がやってる意味がないというか。他人と比べるのではなくて、自分にできることをやろうって」