INTERVIEW(3)――〈君〉が〈命のある存在〉に
〈君〉が〈命のある存在〉に
――なるほど。大森さんはどうですか? 『宿り木』の手応えに関して。
大森「制作に1年くらいかけていて、レコーディングは3回に分けてたんですよね。特にアルバムを意識するわけではなくて、1曲ずつ集中しながら作っていったんですけど、そのぶん、濃厚なものになったかなって」
――工藤さんの歌を汲み取って、そのうえで何を表現するか?ということも考えたと思うんですが。
高橋「そうですね。歌詞を読んで、そこから自分が何を感じるか……いままでは自分にないものを得ようとしてた気がするんですよね。たとえば、ドラムのテクニックだったり。この1年くらいはそうじゃなくて、自分のなかにあるものを掘り下げる、内に向かう作業がすごく増えてるんです。内側の深いところにあるものって、自分でもなかなか理解できなかったりするじゃないですか? そういう意味ではキリがないんですけど、筋トレと同じで、メンタルもいくらでも鍛えられると思うし。実際にドラムを叩いてるときは無心なんですけどね」
――〈伝えたい〉という思いも強くなってるんじゃないですか? 多くの曲に〈君〉〈あなた〉という言葉が出てきますが、そこに込められた気持ちがさらに濃くなってるというか。
工藤「そうですね。いままでも使ってた言葉だし、普段からよく耳にするありふれた言葉だと思うんですけど、この作品を作ることによって、その思いが深まってるんですよね。〈君〉が〈命のある存在〉になったというか。そんなふうに考えるようになったのは、ある人が死んじゃったことがきっかけなんですよね。そのあと〈もっと、ちゃんと生きなくちゃいけない〉って思ったし、そんなことにも気付けなかった自分にイライラすることもあって」
――亡くなった方っていうのは……。
工藤「僕がカントリーにハマってたときに知り合った方なんです。バンジョーとかマンドリン、ギブソンのオールドギターも持っていて、いろいろ教えてもらって。お会いしたのは1度だけなんですが、そのときはもうしゃべれなかったんですよね、喉のガンで。だから筆談で話をしたんですけど、僕のことを息子みたいに思っててくれたんです。だから、余計に情が生まれたというか」
――そんな背景があったんですね。人との出会いという意味では、アルバムのほとんどの曲でプロデューサーとして参加している片寄明人さんの存在も大きいのでは?
工藤「はい。片寄さんは……いい人です(笑)」
大森「そうだよね(笑)」
工藤「いろんなバンドやアーティストのプロデュースを手掛けてるから、以前から名前は知ってたんですよ。でも、GREAT3のことは知らなくて。片寄さんから〈僕がやってるバンド〉って音源をもらって、初めて聴いたんですよね。すごくカッコいいと思ったし、それからいろんな話をしてもらって」
――Anyの在り方をそのまま活かしたプロデュースですよね、きっと。
工藤「うん、まさに。すごく近いところにいてくれるんですけど、僕らの意思をちゃんと汲み取ってくれて。あと、音楽的な共通項があることも大きいんですよね。たとえば“セレナーデ”という曲って、仮タイトルが〈あぁ、僕は二ール・ヤング〉だったんです。それは単に〈ちょっと二ール・ヤングっぽいな〉って思っただけなんですけど(笑)、そういうときのやり取りもすごく楽しいんですよ。“落雷”のときは〈ポップなニルヴァーナって感じかな〉っていう話をしてたり、ほかの曲でも〈コーラスはイーグルスっぽくやってみよう〉とか〈スミスっぽくやってみよう〉とか」
大森「片寄さんの家でも、いろんなレコード聴かせてもらったんですよ」
工藤「いろんな音楽に精通してますからね、ホントに」
大森「〈またレコード買っちゃった〉って(笑)」
高橋「毎日レコード屋に行ってそうだよね(笑)」
工藤「ミレニウムだったり、ゾンビーズだったり、いろんなバンドを知ることができて」
大森「マーヴィン・ゲイとかね」
工藤「〈あ、これがトーキング・ヘッズなんだ〉とか〈トッド・ラングレンって、こういう感じなんだ〉とか。仕事って感じじゃなくて、人間的な付き合いができるのがすごく嬉しいですね」
- 前の記事: INTERVIEW(2)――自分たちがAnyなんだ
- 次の記事: INTERVIEW(4)――ちゃんと生きていきたい