インタビュー

LONG REVIEW――Any 『宿り木』

 

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〈オーソドックス〉や〈普遍的〉という言葉は、単にありふれた標準的なものを指すのではない――Any初のフル・アルバム『宿り木』を聴いていると、そう実感する。工夫を重ねて親しみやすさとシンプルな機能美を備え、それが多くの人に愛される……そんな〈オーソドックスさ〉を感じさせてくれるAnyの作品は、彼らがまだ平均年齢21歳の3ピースなのが意外なほど、地に足の着いた充実作だ。

まず工藤成永の優れたソングライティング&ヴォーカルがバンドの明快な個性として存在し、ベースとドラムスはしっかりボトムを支えるだけでなく、工藤の楽曲性を拡張する、見事なフレージングとアレンジを聴かせている(なおかつ巧い)。

そして彼らのプレゼンスに大きく貢献しているのが、ほぼ全曲をプロデュースした片寄明人だ。絶妙な音の質感で楽曲の世界を膨らませる手腕は、わずかな調味料で素材の味を最大限に引き出す職人技のようである。

本作は3ピースの演奏をベースに、時折キーボードを入れただけの編成だが、さまざまな曲調で飽きさせない工夫も成されている。16ビートで疾走するキャッチーな先行シングル“新しい人”をはじめ、イーヴン・キックが端正なグルーヴを生む“アンチエイド”、華美なエレクトリック・ピアノが踊るワルツ“セレナーデ”やカントリー調の“JAM”もあり、そのいずれもがバンド・サウンドにしっくりと馴染んでいる。

そして歌詞では、大切な〈君〉との物語を通して、成長やアイデンティティーの確立が歌われる。借り物の言葉がないリアルさは、初期のBUMP OF CHICKENにも通じるだろう。

すでにこれほどの完成度を保ちながら、まだまだ伸びしろを感じさせるのが恐ろしい。数年後、彼らはどんなバンドになっているだろうか?

 

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掲載: 2010年12月22日 18:01

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