高橋優 『福笑い/現実という名の怪物と戦う者たち』
[ interview ]
歌のメッセージが内面に向けて研ぎ澄まされてゆくのと同時に、外側に向けて伝わる力がぐんぐん増している。高橋優の3枚目のシングルは、東京メトロ〈TOKYO HEART〉のCMソングとして1年前からすでに深く静かに広まっていた“福笑い”と、NHKアニメ「バクマン。」のエンディング・テーマになっている“現実という名の怪物と戦う者たち”の両A面。〈笑い〉や〈出会い〉というシンプルなキーワードに高橋優の持つ思想と感情と音楽性を集約した、聴く者の心にダイレクトに響く強力なパワーを備えた2曲だ。
遂に笑顔の歌を作っちまった
――“福笑い”、いよいよCDリリースですね。苦節1年……ということでもないですけど、最初にCMで使われてから大体1年ですか。
「そうですね。でもたぶん、苦節ではないですね。苦節と言えば、それこそ作ってから10年も歌ってきた曲があるんですよ。路上の時からずーっと歌ってきて、音源にしていない曲もあるので、それを考えると“福笑い”は生まれる瞬間をラジオ番組で放送してもらって、すぐに東京メトロのCMに使っていただいて、自分が生んできた曲のなかではおぼっちゃまですよ(笑)。歌う気持ちとは全然無関係ですけど」
――曲が生まれた時のことを、改めて教えてください。
「2010年の元旦の午前1時から5時まで、生放送のラジオ番組に出演させてもらったんですけど、そのなかでリスナーの方々に〈いま世界を変えるために何が必要だと思いますか?〉というテーマを投げ掛けて、メールをどんどんいただいたんですけど、それを読んで、何かインスピレーションが湧いたらその場で即興曲を作る、というコーナーに自然となっていったんですよ。そこで、〈世界の共通言語は、英語じゃなくて笑顔だと思う〉というメッセージを送ってくれた方がいらっしゃって、そのメッセージに僕がやたら反応したんですね。僕が思ってることとすごく共通してると思ったので。そしたらスタジオのなかの皆さんから、即興ではなくちゃんと時間をあげるので、番組が終わるまでに作ってエンディングで歌う、という話が出てきて、実際にやることになったんですよ。それで生まれた曲が“福笑い”です。必死だったんであんまり覚えてないですけど、時間は1時間もなかったと思います」
――出来た瞬間に〈これはいい曲だ〉という手応えはあった?
「その場では何もなかったです。歌ったら、スタジオのなかがシーンとなったんですよ。それが〈さぶっ〉という感じなのか、〈なるほど〉というポジティヴな意味なのか、どっちなのかわからなかったです」
――自分自身の手応えは?
「それもなかったです。ただ、笑顔のことを歌うのは、自分のなかではすごくハードルの高いことだったんですよ。〈笑顔を歌いたい〉という思いがあっただけに。いままでも歌のなかに〈笑っていたい〉とか、そういう表現は使ってたんですけど、その前に大人は馬鹿だと歌っていたりとか、〈ナントカなんてクソだけど、笑おうよ〉とか、ともすると皮肉に聴こえるような感じで〈笑う〉というキーワードは出してたんですけど。シンプルに心から〈笑おう〉と歌いたいけど、それで薄っぺらく聴こえるのが怖いという気持ちがあったんで。この曲が出来た時には、これを歌うにはひとつハードルを超えなきゃなという、トライする気持ちがあったと思いますね。〈遂に笑顔の歌を作っちまった〉とか、〈まだ早いんじゃないか〉とか、勝手に一人で考えてました。手応えよりも」
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