LONG REVIEW――高橋優 『福笑い/現実という名の怪物と戦う者たち』
歌は世につれ、世は歌につれ。さて昨今の日本のヒットチャートで目を引くのは、〈人の感情に寄り添う〉という機能性に特化した楽曲たちだ。それは歌詞に顕著で、繋がりや共感を求めるのに加え、しばしば恋愛感情を直接的に述べている。かつて数々の流行歌を作った先人たちは、〈好き〉で〈会いたい〉気持ちを表すための言い回しや語法を工夫していたと思うが、翻って現代の単純化された作風は、それゆえに〈普遍性〉をも内包し、それが楽曲としての即効性に繋がっているようだ。とはいえ音楽以外の娯楽が増えて、人々が音楽を聴く時間が減少した(とされる)いまではそれが当然の流れかもしれないし、そういった楽曲の在り方や受容のされ方が悪いわけでもない。
その一方で、流行の作法からは外れ、己の表現を突き詰める音楽家も常にいる。当代の自作自演家で挙げるなら、ドキュメンタリー映画「ライブテープ」でその個性が広く知られた前野健太、TVドラマ「モテキ」の主題歌に“J-POP”を提供したHalf-Life、バンド・サウンドを従えて冷めた社会に噛みつく小林太郎だろうか。彼らはイビツさや生々しさ、生活感を隠さず、いま自分が思うことを、独自の語り口で歌っている。前置きが長くなったが、この高橋優も、そんな歌い手たちとの同時代性を感じさせる男だ。
この両A面シングル、まず“福笑い”は〈きっとこの世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔〉という楽観的なフレーズを元に完成されたという。ただ、歌詞全体には現実を映すネガティヴな言葉も潜んでいて、単にお気楽な曲ではない。いまという時代を見据え、人々(の心情)の望ましい在り方を思う同曲は、彼なりのプロテスト・ソングとも取れる。クセのある声でひとつひとつの言葉を実直に伝えようとする高橋の歌も、ピアノのリフを活かした、ちょっと90年代のJ-Popを思わせる浅田信一(SMILE)のアレンジも良い。
一方の“現実という名の怪物と戦う者たち”はTVアニメ「バクマン」のエンディング曲でもあり、他者との絆や信頼を、バンド・サウンドで力強く謳う。歌詞がアニメのテーマと一致した点で正統なアニメ・ソングであるこの曲も、現実に対してどう向き合っていくかが歌われている点で、かの“福笑い”に通じている。
その気になれば、大量の音楽にすぐにアクセスできる現代はとても恵まれている。そんな多くの曲のなかで、彼の歌の持つパワーが多くの人の心を引きつけ、浸透していくのならば理想的だと思う。