ROMANCREW 『ロマンのテーマ ~ROMAN'S THEME~』
[ interview ]
ヒップホップに軸足を置きつつ、ブラック・ミュージック全史を手繰り寄せるように、あらゆる形態のファンクネスとメロウネスを追求してきたROMANCREW。サード・アルバム『ロマンのテーマ ~ROMAN'S THEME~』は、ハードな状況をくぐり抜け、自分たちを再度見つめ直したうえで、より自由に、そして楽しく音と言葉を紡いだ作品だという。本作が完成するまでの3年に渡る軌跡を訊いた。
俺たちは〈2.5枚目〉
――2008年の前作『Duck's Market』はすごく端正で成熟した作品だったと思います。いま振り返ってみて、あのアルバムをどう受け止めてますか。
ALI-KICK(MC/トラックメイカー)「新作が出来上がったところなのでそう思ってしまうのかもしれないですけど、まだ甘かったなと。とは言え、その時点では精一杯やった作品なんで、後悔する部分はないし、たまに聴き返してみて〈よう出来とるな〉と自分で思えるレヴェルには達してると思います」
将絢(MC)「新作はメンバー全員が同じ方向を見て作ることができたんで、それよりかはバラバラなところがあったなと思っちゃいますかね。全然好きですけど」
エムラスタ(MC)「もちろん、あそこをこうすれば良かったみたいなことは思います。でも、リリースした時点では、これ以上のものを作るにはちょっと時間が必要だなと思ってましたね」
――そこから3年という結構長めのインターヴァルがあったわけですけど、どういう経緯を経て新作に辿り着いたんでしょうか。
エムラスタ「RHYMESTERやKREVAにフックアップしてもらったというのもあるし、周りからは順風満帆に見えたかもしれないんですけど、でもセカンド・アルバムの『Duck's Market』を出した後、物事があまり上手く進まない時期があったんですよ。ひとつには、レーベルがなくなったことで、ファーストとセカンドが廃盤になってしまった。僕らの作品が買えない状況になっちゃったんで、何か早く作らなきゃと思って、当初はEPを出そうとしたんです。でも、なかなか納得のいくものができなかった」
ALI-KICK「とにかく形にしていこうと、何も考えずに6曲ほど作ったんですね。言葉が浮かぶビートを選んで、行けそうだったらリリックを書いてどんどん仕上げるという。でも、出したい気持ちばかりが先走っちゃってるところがあって、クリエイティヴィティーが良い具合に生まれてなかった」
エムラスタ「ファーストにしても、セカンドにしても、納得のいく作品を作ってきたつもりだし、リスナーも関係者も評価してくれたんですよね。にも関わらず、それを実感できなかった状況だったので、正直に言って、クサってたところはあったんです。なかなか形にならないことに対するいら立ちもあったし、メンバー間でケンカもしたし。でも、自分たちのやってきたことは間違ってないんだから、もう一度自分たちの魅力を見つめ直そうと。そのへんで、ファイル(今回のリリース元)がいっしょにやろうと言ってくれたので、外部の意見ももらいつつ、いろいろ話し合ったんです。で、EP用の曲はすべてボツにして、1からやり直すことにした。そこから歯車が上手く回り出しました」
――上手く回りはじめた具体的なきっかけはありますか。
エムラスタ「自分たちの魅力について改めて考えてみて、最初に完成した曲が“2.5”だったんです。この曲で自分たちを〈2.5枚目〉って表現で定義付けできたことが大きかったかもしれないですね。いままでは、まずシングルっぽい曲が出来上がるところからアルバム制作がスタートしてたんですが、今回は自分たちの足元を支えるような曲ができるところから始まった。そういう意味で、これまでとは違いますね」
――確かに“2.5”はROMANCREWのスタンスや魅力を明快に伝える曲ですよね。ROMANCREWって、すごくクールにキメてるところがありつつ、アルバムには毎回、やたらとエロい曲を入れてきたりする(笑)。そういうギャップとかズレが、人によってはわかりにくいのかもしれない。でも〈2.5枚目〉ってフレーズを掲げることで、グループの立ち位置がすごく腑に落ちる感じがします。
エムラスタ「おっしゃる通りで、〈ROMANCREWって何?〉って訊かれても、これまでは上手く言えなかったんですよ」
将絢「道が見えたんですよね。〈ああ2.5ね、俺たちそんな感じだよね〉って。いままで〈ジャジー〉とか〈スタイリッシュ〉とか言われたこともありましたけど、どれもこそばゆくてしっくりこなかったんで」
ALI-KICK「〈俺たちはこうだ〉って言ってるだけの曲という、そういうアプローチ自体もこれまではなかったんですよね。特にメッセージもないけど、それでいいんだと思えたことで安心できたというか、自信になりました」
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