INTERVIEW(3)――ゼロはゼロに限りなく近く
ゼロはゼロに限りなく近く
──最近、外部の音楽にインスパイアされることがなくなったって発言してるでしょう。
「ああ、そうですねえ」
──でも今作からは、いまの音楽の潮流に対するリアクションみたいなものが、読み取れなくもないんだけど……。
「はいはい。2000年以降のポップ・カルチャーに勢いがなくなってきたと言われてるものの、音楽はやっぱり変化してきてると思う。それは認識してます。ものすごく細分化されて、いままでは〈こんなものねえよ〉って思ってたものが、わりと普通に存在してたりとか、そういうことも認識してたし」
──『subliminal』に対して、今作はリズムの感覚とか音響感覚とか、具体的に言うとダブステップとかクリック/ミニマルとか、〈いま〉って時代を投影してるような気がしたのね。
「ああ! そうですか」
──それはさっき言った、すごく暗い感じがするっていうのとほとんど同義なんだけど。
「ああ、なるほど」
──いまの時代に対するアプローチと、砂原さんのなかにがっちりと存在する美学やこだわりのようなものが、併存もしくは融合してる感じというのが、今回いちばん興味深く聴けた。
「あの、ダブステップみたいな音楽ってテンポ感がすべてだけど、そういうものを気にしなくなって。自分のテンポ感とかクオンタイズみたいなものをしっかり作れればいいと」
──その、自分のテンポ感とかクオンタイズが変わってきたという自覚はないですか。
「機材の変化は大きいですね。機材というかソフトウェアですね。ソフトウェアに引っ張られているところもありますから」
──ハードウェアは使わない?
「今回は特に減らしましたね。オシロスコープで見たとき、ハードウェアを使うと音の締まりが若干甘いなと思うことがあって。音が止まったときにオシロスコープの動きが完全に止まらないんですよ、アナログを通すと」
──残留ノイズがあると。
「そうですそうです。でもデジタルでやるとそれがまったくないんですよ」
──それはやっぱり気になるわけ?
「気になりますねえ。ここでオシロスコープを完全に止めようって、追い込んでいって。ここは音が消えるってところは完全に消えたほうが新しい……と思ったんですかね。 オン/オフの正確さみたいなものが、昔よりもさらに厳密にできるようになってるから」
──そこで何を求めてるの?
「なんでしょうねえ‥‥ゼロがあったとしたら、0.0001じゃやっぱりダメで、ゼロはゼロに限りなく近いほうが良いってことかな。2000年代以降のいちばん大きな変化は、デジタルをコンピューターで扱えるようになったことだと思うんです。『LOVEBEAT』ももちろんコンピューターを使ってるんですけど、今回ほどの音の正確さはなかった。もうちょっと甘い。あと、例えば曲を作るときに、ジャン、とコードを弾いたりするじゃないですか。それ自体がおもしろくない、とか思って。例えばそこらの自然音にも音階がある。でも鍵盤と鍵盤の間の音を出そうと思ってもできないわけですよ、ないんだから。あと、曲は4小節とか8小節で進んでいって、〈あ、変わるぞ〉ってとこでだいたい変わる。それもどうかなと」
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