インタビュー

LONG REVIEW――砂原良徳 『liminal』

 

砂原良徳_J

昨年リリースされたシングル“subliminal”は、2001年のマスターピース『LOVEBEAT』の世界観を受け継ぎつつ、その先の地平も垣間見せる作品だった。電子音だけで優美な音響空間をデザインしていくスタイルは、まぎれもなく『LOVEBEAT』のもの。だが、あの極端なまでのシンプル&ミニマル主義からは脱却しつつある気配を窺わせており、細やかなビートが散りばめられ、楽曲によっては唐突でアクロバティックな展開も盛り込まれていた。そのことによって、完璧なバランス感を求めた『LOVEBEAT』にはない、ある種の歪みすら取り込んでいたように思う。あれから1年を待たずして、ついに届けられた10年ぶりのフル・アルバム『liminal』には、“subliminal”でわずかに感じられた不穏な空気が充満している。間違いなく『LOVEBEAT』のヴァリエーションではないし、むしろ対極とすら言えるかもしれない作品だ。

例えば3曲目の“Natural”は、エレピとウッド・ベースとドラムスによるジャズ・セッションを電子変調したかのような楽曲なのだが、各トラックは徹底的に潰され、有機的とも言えるタイトルとは裏腹な無機質極まりないサウンドに変容している。暴力的でノイジー――そんな言葉を氏の作品に対して使っていることにわれながら驚いてしまうが、アルバム全編がそう形容し得る要素に満ち満ちているのだ。エレクトロニカ経由のグリッチ・ノイズがせわしないビートを刻み、安定を拒否するかのような、先の見えないサウンド・ジャーニーが続く。

エレガンスを身上としてきた砂原良徳が、ここまでアグレッシヴな音を轟かせている事実に驚かされるばかり。この鬼気迫るテンションは一体……そんな疑問を解消すべく、何度も何度も繰り返し聴いているのだが、聴くごとに謎が深まるというか、音の成り立ちを掴むことができないし、そこがむちゃくちゃおもしろい。当分は、この正体の見えぬ全8曲をリピートし続けることにします。

 

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掲載: 2011年04月13日 18:01

更新: 2011年04月13日 18:03

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