インタビュー

INTERVIEW(4)――新しい秩序を作りたい

 

新しい秩序を作りたい

 

砂原良徳_A3

 

──音質は曖昧さのないハイファイな方向にいくけど、音楽そのものはもっと曖昧に……。

「そう。あとは、構成の概念、曲の始まりと終わりって概念とかも、どうなのかなと」

──つまり煎じ詰めて言うと、音楽の伝統的な決まり事、それを見直してみたいという。

「それはすごくあります。いままでと比べてより強くなってるし、まだやりきれてない部分があって、もうちょっと突き詰められそうな気がします。石野(卓球)くんの『CRUISE』をアルバム作ってるときに結構聴いてたんですけど、あれの何がいいかって、ここから始まってここで終わる、っていうはっきりしたものがないこと。テクノとかハウスってそうじゃないですか。ミックスされることを想定してるから。それから、よくセオリーで使われるような平均律とかコード進行の曲が1曲もなかったこと。あれはかなり意識しないとできないと思いますね。だって彼が作ってきた曲って、もうちょっと平均律的にセオリー通りの曲が多かったから。あきらかにそれと違ったんですよ。和音も、例えばCmとかCm7とか、そういうまともな和音じゃなく、ただ押したい鍵盤を押してるだけ。こんな和音知らないけど、セオリーなんか無視してもこれがいいから使っちゃえ、みたいな判断基準でやってる。もしそうなら、かなり自分の考えに近いなと思った。西洋音楽的なルールやセオリーとのつきあい方を考えたいんです」

──そこでなにか自主的に設けたルールというのはあるんですか。

「そのルールが、たぶん新しい音楽を作ると思うんです。その秩序を作りたい。それができれば、もっと音楽はできやすくなる」

──例えばこのアルバムだと?

「2曲目(“Physical Music”)から6曲目(“Beat It”)ぐらいが、特に言葉にならなかったり、映像が浮かばなかったり。だからいけないってわけじゃない。すべて説明する必要もないし、すべて説明できるようなことなんて大したことない。無秩序な音楽をやる気はないですよ。なんらかの秩序をもった音楽を作りたいと思ってる。でもそこで、従来のポップ・ミュージックでよく使われるようなセオリーじゃないものが、このアルバムもそうですし、この次のアルバムを作ることで見えてくる気がしてるんですよ」

──いままではちゃんと説明できるような秩序を誰かが用意してくれたけど、いまは自分でそれを探してる最中だからはっきり言語化できない。新しい秩序を作ろうとしてるから、従来の言葉ではなかなか説明できないと。

「そうですそうです。理屈じゃなく感覚的に機材をいじって、いいものは採り込んでいく。その規則性は自分でも何だかわからない」

──把握できたら、それが〈新しい秩序〉になる。

「そういうことだと思います」

──じゃあ『liminal』は途中経過というニュアンスが強そうですね。これで充足しない、完結しない。いま現在も動いている音楽というか。

「『LOVEBEAT』のときは、終わったあと次に何やるか全然見えなかったのに、いまはわりと次にやることが見える。『LOVEBEAT』を自分のスタンダードとして、それを磨いていくだけの人生って、まだ自分には早いと」

──『subliminal』から半年間のタームでここまで変わったんだから、なるべく早く〈次〉が聴きたいですね。

「ああ、うん。でも終わったばかりなんで、もう少し待ってください(笑)」

──2~3年ぐらい?

「いや、来年には出せると思いますよ」

──ほんとに? それ、書くよ?

「いいですよ。書いちゃってください(笑)」

 

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掲載: 2011年04月13日 18:01

更新: 2011年04月13日 18:03

インタヴュー・文/小野島大