LONG REVIEW――チリヌルヲワカ 『白穴』
ドラム・スティックでのカウントを合図に、ベースがグリッサンドで滑り込み、荒々しいギターが掻き鳴らされる。冒頭の“ホワイトホール”は、新生チリヌルヲワカの〈バンド宣言〉だ。
そもそも彼らはGO!GO!7188のユウこと中島優美のソロ・プロジェクトに端を発するバンドゆえに、前作『イロハ』は、彼女の表現したい世界観をバンドで支える向きがあった。やや内向的で情念を漂わせた歌詞を、多様なサウンドで色付けたのが前作だとすれば、本作『白穴』では感傷に浸るのではなく、それを燃やし尽くさんとするようなシャープで高出力なバンド・サウンドを聴かせている。イワイエイキチと阿部耕作のリズム隊から生まれる足腰の強いビートと、新加入のギタリスト=坂本夏樹のトリッキーでソリッドなフレージングがうまく噛み合っているようだ(このアンサンブルに、JUDY AND MARYを思い出した)。そこに中島のコブシを利かせた歌声が乗っている。
楽曲を見れば、入り組んだアレンジと和風のメロディーが東京事変にも通じる“やまみちにて…”や、クラシック音楽のラヴェル“ボレロ”を引用した“答案用紙”、ミディアムに始まって刻々と曲調を変えていく“追伸”など、流石の引き出しの多さというか、バンドとしての奥行きを感じさせるものが多い。
本作で中島が書く楽曲はラヴソングだ。〈あなた〉を想う混沌とした胸の内を、抽象的なイメージで描く詞は、聴き手の解釈に委ねる余白が多い。ただ、どの曲の主人公も切実な想いを抱えながら、その目線は前を向いている。それが前作との違いでもあり、その佇まいが、本作の強いサウンドを導いたようにも思う。