インタビュー

LONG REVIEW――Alice Nine “BLUE FLAME”

 

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今年の1月6日に開催されたAlice Nineの武道館公演〈TOKYO GALAXY〉の本編終了直後。“Entr’acte”を耳にして空気が変わったと感じたのは、いま思えばあたりまえの反応だった。嵐の前の静けさのごとく、穏やかにさざめく波の音。そこに沈み込むようなピアノのフレーズが重なりゆくアンビエントなインストゥルメンタルは、その後に発表されたコンセプト・アルバム『GEMINI』で言うなれば、地球から月へと場面転換する際の暗転に当たる曲。舞台上に光が戻れば、眼前には見たこともない景色が広がっている。

異世界へ誘われる感覚というのは上述の武道館公演の最中にもあった。会場をぐるりと囲む花道や大スクリーンに投影される映像を駆使し、豪奢な衣装を纏った5人が繰り広げる煌びやかなパフォーマンス。生身のロック・バンドとしてソリッドかつフィジカルなビートを呈していながら、どこか浮世離れした華麗さも併せ持つ――そんなステージの在り方には、ミュージカルやオペラの類と通じるものを感じた。そういう意味において、彼らはまさしくヴィジュアル系と言えるだろうし、エンターテイメントであること、ポップであることに意識的な人たちだな、というのが当日の印象だった。そして、その時点の彼らはすでにプロデューサー・岡野ハジメの洗礼を受けて『GEMINI』を完成させていたことを鑑みれば、そう思ったのもまた当然のことである。

その表題曲〈GEMINI〉は“GEMINI-0-eternal”“GEMINI-I-the void”“GEMINI-II-the luv”から成る連作となっており、鬼気迫るプレイで凄まじい転調を繰り返す、トータルで12分超の長尺曲。クラシックの組曲に近い構成のなかで刻々と変化し続けるリズム、壮大なスケール感を演出するストリングス、伸びやかに駆け上がるハイトーン・ヴォイス、重低音のユニゾン・リフからクリーン・トーンのアルペジオまで、鮮やかなコンビネーションを見せ付けるツイン・ギター――アルバム全体に散りばめられた幅広い音楽性を凝縮したようなこの曲は、それでいて歌謡曲としてのポピュラリティーもしっかり装備。つまり、Alice Nineが提示する独自のエンターテイメント性の、ひとつの完成形がここにはある。

そんなエポック・メイキングな作品から約4か月という短いスパンで届けられたのが、このニュー・シングル“BLUE FLAME”である。彼らが次の一手として投じたのは、『GEMINI』で言えば前半のポップ・サイドにあたる、エッジーなギター・リフを主体とした歌謡ハード・ロック。カップリングの“残響ホワイトアウト”も同様の路線だが、それぞれのシンプルな構成の合間には楽器隊のソロ回しやギター陣の速弾きなどのテクニカルかつキャッチーなフックが盛り込まれており、『GEMINI』以降の片鱗も確認することができる。

また、通常盤には“極彩極色極道歌〈G3〉”(2004年)のリメイク曲である“G3”も収録。これがまた、唐突すぎる展開(誉め言葉)が細切れでコラージュされたプログレッシヴなデス・メタル……なのだが、最終的にはなぜか哀愁の数え唄に帰結するという異色のポップソング。そのスキル/リアレンジ作業に対する全力投球ぶりは、ある意味で〈GEMINI〉の短縮版……というのは言いすぎだろうか? インタヴュー中のNaoの発言「わかったうえでの遊び心」にぴったり合致する楽曲だと思うのだが。

 

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掲載: 2011年06月08日 18:01

更新: 2011年06月09日 18:40

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