インタビュー

androp 『relight』



あくまでも音楽を届けたい、という気持ちが謎めいた存在であり続けた理由。しかし、いまその心意気を知ることで、彼らの音楽が持つ〈味〉をより深く堪能しよう!





常に曲が主役

アーティスト写真もプロフィールもあまりオープンになっていないにもかかわらず、大きな注目を集めてきたバンド・androp——とはいえ、ライヴは普通にやっていたし、動画サイトで映像も見られたので、本気で覆面バンドであり続けるつもりはなかったのだろう。要は〈伝えたいことの本質は何なのか?〉という意志の問題だ。目の前に座ったバンドのフロントマン・内澤崇仁(ヴォーカル/ギター:発言以下同)は、「何も隠してませんよ。普通の男です」と笑いながら、あえてプロフィールがあきらかにされなかった理由を説明する。

「最近は料理に例えてるんですけど、僕らは料理人であって、曲という料理を作って、それをお客さんに提供して美味しく食べてもらいたいんですよ。そのために、CDだったらパッケージにもこだわりたいし、ライヴだったら照明や映像にこだわって、より深く感情を込めて聴けるようにしたくて。常に曲が主役だと思っているので、〈このシェフが作る料理だから〉という聴かれ方ではなく、曲を聴いて、〈美味しいね。これを作ったのは誰だろう?〉という順番にしたかったのはあります」。

そのサウンドのレシピを握る男・内澤のカーペンターズやビーチ・ボーイズからチルウェイヴに至るリスナー遍歴については別項を参照していただきたいが、それはある意味、王道からより先鋭的なものへ向けて、熱心な音楽ファンが辿るべき道を真っ直ぐに辿ってきたと言えるもので、勘の良いリスナーならばandropの音楽にそれらの要素のすべてを発見するのは難しいことではない。

「言われてみればそうですね。全部が折り重なってる感じはすごくします。自分がカッコイイと思ったものをチョイスして聴いてきているので、自分の作る曲にもその要素はあると思います。ただ、マニアックな音楽がカッコ良くて、大衆音楽がカッコ悪いと思った時期もありましたけど、大衆音楽は大衆に受ける理由があって、それはそれで素晴しいし、すごくストイックにやらないとできない部分もあるので。そういった部分では、好き嫌いなく聴いてきたと思いますね」。

どんな音楽にも偏見を持たない、という純粋な音楽ファン。いわゆるJ-Popリスナーの耳にも優しいキャッチーなメロディーを書くにも関わらず、日本の音楽をあまり聴いてきていないというのは意外だったが、音そのものの美しさやカッコ良さにこだわる聴き方/作り方は、昔もいまも変わらないと語る。

「いまの音楽は時代背景やその人の思想が曲の後ろに隠れていると思う時が多いんですけど、できるだけ何も考えないで音を聴くようにしてます。思想が入ると偏った聴き方になっちゃうと思うので。自分が作る時も思想をそのまま曲に反映させるより、そこを飛び越えて、聴いてる人ともっと違った繋がり方をしたいと思ってます」。


andropをスタンダードなものにしたい

これまでにリリースした3作——『anew』『note』『door』は5〜8曲を収録したミニ・アルバムだったが、新作『relight』は全12曲というフルサイズ。曲調のヴァリエーションも増えて、1曲に込められたアイデアの量もハンパなく多い。オープニングを飾る“Strobo”はわずか2分ちょっとの楽曲だが、アンビエントな音の粒が宙を舞うなかへ優しい歌声がそっと滑り込んだ次の瞬間、ドラムが激しく打ち鳴らされて祝福感に溢れたメロディーが高まり、ロックンロールのカタルシスに満ちたエンディングに至る。絶対の自信作の冒頭を飾るに相応しい、象徴的なナンバーだ。

「“Strobo”は、本当は『anew』の1曲目になるはずだったんですよ。でもその当時は、もっと広がる曲なのに広げ方がわからなくて、未完成のまま入れられなかったんです。でもアルバムを3枚出して、そこで蓄えたノウハウや方法論を使って納得できる形に表現することができました。andropの過去と現在のすべてを知る曲として、これは絶対に1曲目だと思いましたね」。

楽曲のスタイルは内澤のルーツとなるジャンルをベースに、時には1曲のなかで何度もテンポ・チェンジやスタイルの変化を繰り返したりする。そして耳を澄ませば、ナイーヴな表現のなかに明確なメッセージを込めた歌詞と、それを完璧に表現する儚くも凛々しい歌声から『relight』という表題に込めた深い思いが聴こえてくるだろう。

「震災があって、いままで光っていたものが消えかかっているような漠然としたイメージが自分のなかにありました。そこで、いまの状況をすぐに変えることはできないけど、各々が自分のフィールドで、いまできることを精一杯やるのがいちばんいいと思ったんですよ。そう思いながら曲を作っていたので、全部の曲を並べてみた時に『relight』という言葉がすぐに思い浮かんだし、全部の曲に共通して〈光〉や〈希望〉のイメージが入っていると思います。もともとandropを始めた時から、僕は常に自分の曲に希望や光を入れたいと思っていたんです。僕自身が悲しい時に音楽を聴いて慰めてもらったり、楽しい気持ちにさせてもらったり、音楽に救われてきた体験があるので。音楽が人を救う力、人を元気にする力は僕のなかで普遍的な力だと思っているから、それを忘れずに歌っていきたいと思ってます。それが、僕が音楽をやる意味なのかもしれないです」。

これからの夢は?と訊けば、「聴いてくれる人を増やしたい」「曲を作り続けていたい」と答えてしまう。内澤はそんな男で、andropはそんなバンドだ。音楽の持つ力を信じる信念の強さにかけて、彼らは疑いなく大器の風格を備えている。

「曲を作るのが好きなんですよ。常にトライ&エラーを繰り返すのが好きで、それを聴いた人のなかで化学変化が起きて、何かしら意味を見い出すということが素晴らしいことだなと思っています。憧れるアーティストはいますけど、そういうふうになりたいというわけではなくて、andropをスタンダードなものにしたいという気持ちでやっていきたいですね。変わらないものとしてあり続けたいなと思ってます」。


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掲載: 2011年09月14日 18:01

更新: 2011年09月14日 18:01

ソース: bounce 336号 (2011年9月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫