THE BEATNIKS 『LAST TRAIN TO EXITOWN』
[ interview ]
THE BEATNIKSが約10年ぶりに新作を出すというニュースを聞いた時、思わず膝を何度も叩いた。混沌としたまま出口の見えない閉塞的な社会で、毎年首相が交代するような――そして震災~原発事故に揺れるいまの日本で、あの二人ならどんなウィットで現状を切り返すだろう?と、ここ数年ぼんやりと考えていたからだ。そして届いたニュー・アルバム『LAST TRAIN TO EXITOWN』。見事な回答だ。見事に彼らはいまの時代に一石を投じている。〈こんな自分たちですが、こんな時代にそれでも生きてます。結構いいでしょ〉といったシニシズムで。高橋幸宏、59歳。鈴木慶一、60歳。寄る年波をもユーモアにまぶしてポップとする。心に痛みとコンプレックスを持ってはいるものの、それさえも自嘲してしまう永遠の大人少年二人=THE BEATNIKS。エレクトロニカ的なアレンジ/手法も採り入れてこれまでになく柔軟に仕上げた本作で、彼らが見せる美学とは?
音を出したらそれがもうレコーディング
――今回、久々にTHE BEATNIKSとして作品を作ろうということになったのは、何がきっかけだったのでしょうか?
鈴木慶一「21世紀に入ってからずっと話が出ては消え、出ては消え……を繰り返していたんだけど、今年頭に出た僕のソロ・アルバム(『ヘイト船長回顧録』)で1曲、幸宏にドラムを叩いてもらったのね(“老婦人と見知らぬ人”)。あれ、テイク2くらいでアッという間に録り終わったんだけど、まさにプロコル・ハルムみたいな仕上がりになって、もっともっとプロコル・ハルムみたいなことをしたいって思えたのがきっかけかな(笑)。っていうのはアレとしても、意外なことに僕のソロに幸宏が参加したことっていままで一度もなかったんだけど、去年夏のpupaのライヴを観て〈こりゃやっぱりスゴい!〉って思ってね。こんなにいろんなパターンが叩けるドラマーっていないんだよ、幸宏くらい。こりゃやっぱりやらなきゃなあって思ったのね」
高橋幸宏「次やるのはTHE BEATNIKSだなって思ってはいたんだけど、二人ともいろいろやってたからまったく空きがなかったんだよね。で、ようやくやれることになったのが今年の2月くらい。今年はpupaはなさそうだし、YMOもまだその時はわからなくて、あったとしてもTHE BEATNIKSをやるくらいの時間はあるだろうって思って、とりあえずちょっと話そうか、みたいな感じで始めたら今度は僕がぎっくり腰になったり(笑)、地震が起こったりして」
鈴木「でも、作業始めたら早かったね」
高橋「音出してすぐにもう“Go and Go”が出来た」
鈴木「僕がスタジオに遅れて行くと、幸宏がもう鍵盤のところに座っていて、居場所がないの。仕方ないからこっちはギター弾くか、ってそんな感じでセッションを始めるわけだけど、もうその場でどんどんいいリフが浮かんでくる。で、幸宏が〈あ、いまのそれいい!〉って言うからそのまますぐ録音」
高橋「そうだね。だから無駄な音が一つもない。録った音は全部使った」
鈴木「ここ数年、どんな場合でもそういう感じで、仮の録音とかそういうのはないよね。プリプロダクションという名目でも、もうそのまま録っちゃう。しかも幸宏との場合はまさに無駄がなかった。音を出したらそれがもうレコーディング(笑)」
高橋「しかも、僕と慶一のスピードが全然変わってない。いっしょなんだよね。そんな感じで1日1曲ペースで作っていたけど……」
鈴木「実働時間5時間くらい(笑)? 集中力の高め方とスピードが一致していたんだ。でも、思えば、THE BEATNIKSってファーストの頃からこういうやり方でね。そこも変わってないんだな」
高橋「昔は時間かかったけどね。あれはあれで必要だったけど、いいものが作れるかどうかに時間の問題は関係ないね」
――アルバム全体のテーマを設定したりはしないのですか?
鈴木「それが毎回ないんだよね。今回も最初から全然何も決めてなくて、2回目のミーティングの時に幸宏手書きのメモがあった程度(笑)」
高橋「全10曲にしよう、1曲目は歌から始まる曲にしよう、2曲目は北欧のエレクトロニカっぽいものにしよう、で、途中このあたりでカヴァーも入れて、最後に静かな曲を……って感じで考えてて。で、最終的に今回は共作名義にしよう、レノン=マッカートニーみたいにねってことだけを決めて。もうどこの部分をどっちが作ったかも忘れちゃったしね(笑)」
鈴木「コンセプトはないのに模型だけをいきなり作っちゃうような、そんな感じだね。でも、初期衝動の思い付きってすごく大事でさ。幸宏とはそれができちゃうんだな」