インタビュー

LONG REVIEW――lynch. “MIRRORS”



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みずから〈バンドの第1部完結作〉と位置付けたメジャー・デビュー・アルバム『I BELIEVE IN ME』。そのリリース・ツアーのファイナルとなった9月4日の赤坂BLITZ公演がとにかく圧巻だった。

2デイズ設けられた東京公演は、初日に〈un ombra(影)〉、2日目に〈il inferno(地獄)〉といったタイトルが掲げられ、筆者が観た後者は深紅のビロードに彩られたステージ上で炎が噴出しては揺らめくという、まさに地獄の業火を目の当たりにするような演出。ただ、それ以上に強く記憶に残っているのは、会場全体を焼き尽くさんばかりの苛烈なパフォーマンスを繰り広げた、生々しい5人の姿だ。アンコールまではMCもほとんどないまま、本編の全20曲を約1時間20分でフィニッシュ。彼らは徹頭徹尾、野生の獣のようにギラギラとした瞬発力と攻撃性をもって、強固なバンド・サウンドを提示してみせたのだった。

あれから2か月――〈lynch.第2部〉への導入となるニュー・シングル“MIRRORS”が早くも到着した。高速2ビートで突っ走る鋼鉄曲“THE TRUTH IS INSIDE”、変則的なキックに支配された“MIRRORS”、挑発的なシャッフル・ナンバー“DEVI”。リズムを起点として制作されたという3曲は、なるほど三者三様のビートを、トップスピードで刻み続ける。

とは言え、暴力的な疾走感の果てに浮かび上がってくるのは、狂おしいほどのロマンティシズム/センティメンタリズムであったりする。重厚に圧し掛かるギター/ベースのユニゾン、絞り出すような葉月の咆哮。かと思えば、その狭間には淡いギターのアルペジオがフェイドイン――と、マッシヴかつ繊細なアプローチを約2分の楽曲のなかに散らした“THE TRUTH IS INSIDE”。浮遊感のあるギターをアクセントにした“MIRRORS”。サビでメロディアスに、センシティヴに開ける“DEVI”。先述の〈狂おしさ〉に拍車をかける耽美な日本語詞も良い。

ヘヴィー・ロック~インダストリアルと、90年代のV系にも通じる歌謡性のコントラスト――つまりはlynch.の特性をより濃厚に、巧妙に押し出すことで、〈過激なロマンティスト〉であるバンドの側面を露わにした今回のシングル。そのなかで、5人の奔放な音が、ある瞬間には一点集中で牙を剥く。

本作は、冒頭のライヴ感に顕著ないまの彼らのモードを端的に切り取った一枚とも言えるかもしれない。自身が孕む二面性をどうコントロールしていくのか、今後の彼らのサウンドの鍵は、そこにあるような気がする。



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掲載: 2011年11月02日 18:02

更新: 2011年11月02日 18:02

文/土田真弓