Serph『Winter Alchemy』、Reliq『Minority Report』
[ interview ]
約2年の間に出したアルバム3枚で、Serphは日本の電子音楽シーンにおける新世代アーティストを代表する存在にまでなった、と言っていいだろう。電子音と生音を縦横無尽に操って生まれる夢幻の音世界、フックを利かせたセンティメンタルなメロディー、そして常に新しい音を示していく旺盛な実験精神。彼の音楽には、ゼロ年代のエレクトロニカ~音響系以降の新しいカタチが、はっきりと表れている。カリブーやフォー・テットらの海外勢に日本で対抗し得る数少ない一人だと言えるし、昨今のチルウェイヴ~グローファイにも通じる同時代的なドリーム・ポップとしても捉えられるはずだ。
そのSerphが、クリスマスをコンセプトとしたミニ・アルバム『Winter Alchemy』と、〈別人格〉として立ち上げた新プロジェクト=Reliq名義の初作『Minority Report』を同時にリリースする。彼はこれまで一切ライヴを行わず、メディアへの露出もほとんどない。実体は謎に包まれているのだが、今回は貴重なインタヴューの機会を得たので、まずは音楽遍歴から訊いてみた。
コードが好き
──学生時代にDJをやっていたそうですが、それ以前に音楽制作をしたことはあったんですか。
「高校生くらいの時に、エレキ・ギターを1年くらい習っていたんですよね。その時に楽譜を読んだり弾いたりというのはしていましたけど、作曲まではしてなくて。当時はロックが好きだったんで、コピーしたりして、ストレス解消していたというか。それでその後にDJをやるようになったんですけど、それもしなくなった頃から機材が進化してきたってこともあって、サンプリングだけで曲を作りはじめました」
──機材のお話とは別に、自分で音楽を作る欲求が芽生えたのは、なにかきっかけがあったんですか。
「大学を中退しているんですね。大学で就活が始まるくらいの頃に中退してしまったんですけど、就活して就職して、普通に通勤電車に乗って、っていう仕事はできないと実感しまして。自分はそういうのはダメだと。人生1回きりだし、好きなことやらなきゃ意味がないと思ったんですよね。その頃には音楽にしか価値が見い出せなくて、ひたすら聴いていましたね」
──じゃあ最初から趣味とかのレヴェルじゃなくて、自分のすべてを注ぎ込むような覚悟があった、ということですか。
「そうですね。強迫観念じゃないですけど、生きている間に究極の音楽を必ず作ろう、というのはずっと思っています。それがなんなのかはわからないですけど。デビュー前なんかは、その日その日で必死に作って、自分で聴いて〈これは満たされるな〉とか〈自分は天才だ〉とか(笑)思うわけですよ。そういう感覚が生きがいになって。その流れで制作を続けるうちに、CDを出していただいて、いまみたいな感じになったんです」
──最初はサンプリングで、その後ピアノを演奏するようになるわけですが、サンプリングだけでは限界を感じたということですか。
「ある程度、素材が詰まっているもののサンプリングだと、アレンジしていっても結局展開がないっていうか、おもしろくないなと思って。サンプリングした素材を鍵盤に振り分けて、オリジナルの音色を出そうと思ったんです。あとピアノの音色自体も好きだったので」
──そこからはピアノを中心に?
「コードが好きなんですよね。おもしろいコード進行とか。メロディーは抜きにしても、コードのいちばん上の音が連続していく美しさ、みたいなところから始めたんです」