インタビュー

LONG REVIEW――Serph『Winter Alchemy』、Reliq『Minority Report』



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春先に発表されたサード・アルバム『Heartstrings』のみならず、その前の2作品『accidental tourist』『vent』も含めてロング・ヒットを記録中である気鋭のトラックメイカー、Serph。素性を一切明かすことなく、ただ〈音〉のみで多くのテクノ~エレクトロニカ~ドリーム・ポップ愛好家を驚喜させてきた彼にこのたび接見できたわけだが、約1時間ほどの対話のなかでもっとも印象的だったのは、自身の音楽を〈宇宙讃歌、生命讃歌、人間讃歌〉と表現していた点。みずからを取り巻くすべてを肯定できる世界――それはつまり究極の理想郷だ。そして、そのなかでもたらされる多幸感、発せられる歓喜のエモーションをメロディーとして響かせたものがSerphのサウンドであるからこそ、聴き手のイマジネーションを媒介として最大級のファンタジー世界を構築することができるのだろう。

そんな彼から届けられた新作『Winter Alchemy』は、クリスマスをコンセプトとしたミニ・アルバム。ピアノやストリングスのノーブルな調べとイルミネーションのように瞬く電子音が聖なる日のロマンティックなムードを、疾走するブレイクビーツが来たる日に向けて高まる期待感を描き出す、エレクトリック・シンフォニーを堪能することができる。

そして、同時にリリースとなるSerphの別人格プロジェクト、Reliqのファースト・アルバム『Minority Report』。ビートに重きが置かれたReliqのサウンドは、Serphよりフィジカルでエクスペリメンタルなブレイクビーツが主体となっており、フロア対応も可能な越境ダンス・ミュージック集となっている。

煌めく電子音と開放的に躍動するビートがオープニングに相応しい“tea”にはじまり、太く鳴る太鼓のリズムでトライバルな空気も纏わせた“vale”、バウンシーなビートの上をエキゾチックな女声が浮遊する“mini”、カット&エディットの応酬で遠大なサウンドスケープを小気味良く切り替えていく“radiator”、アグレッシヴなブレイクビーツで駆け抜ける“rushhour”――。冒頭から休むことなく飛び出してくる無国籍ビートを浴びていると、想像のなかの魅惑的な辺境にうっとりと想いを馳せずにはいられなくなる。

そんな本作のラストを飾るのは“caprice”。ドリーミーなシンセが踏む軽やかなステップを追い掛けた先で待っているのは、カタルシスの大解放というクライマックスだ。ルートは違えど、辿り着く場所はSerphと同じ。そこに広がっているのは、聴き手の数だけ存在する、美しきパラダイスである。


カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2011年11月16日 18:01

更新: 2011年11月16日 18:01

文/土田真弓