インタビュー

LAMA 『New!』



よーく考えてみると、いやよく考えなくても、ものすごいメンツ。いや、そんな過去のフィルター越しに見なくても、現在進行形のおもしろい音が鳴っているんですよ!



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例えば、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトがキルズのアリソン・モシャートらと組んだデッド・ウェザー。例えば、ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンとコレクションズ・オブ・コロニーズ・オブ・ビーズのメンバーとが合体したヴォルケーノ・クワイア――現在の英米にはすでにスタンスを確立したバンドの主要人物同士が手を結んだような、〈他流試合〉が多数ある。そしてその多くがアーティスト主体に動いた、言わば気ままな課外活動の末に誕生しているのが特徴だ。しかし、だからこそ本流ではなかなかな生まれ得ない突飛な発想が芽生える。だからこそ想定外の化学反応が起こる。LAMAと名付けられたこの4人組も、自然な流れで結成されるに至ったバンドだ。メンバーはナカコー(iLL)、フルカワミキ、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers/toddle)、牛尾憲輔(agraph)。ナカコーとフルカワはスーパーカーで、田渕はナンバーガールの一員として同じ90年代後半にデビューした者同士。片や牛尾は世代も音楽的なバックグラウンドもまったく異なる異分子だ。よもやこんな4人がバンドを結成することになるとは、誰も考えていなかったという。

「きっかけは私です。(自分の)次の作品で誰かいっしょにやれるミュージシャンを考えた時に、いままでは女性アーティストがほとんどいなかったんですよね。そこで、パッとひさ子ちゃんが浮かんだんです」(フルカワミキ、ヴォーカル/ベース)。

「でも、それまで会ったことなくて。フェスとかではいっしょになったけど、意外と話したりする機会ってないんですよね」(田渕ひさ子、ギター)。

「スーパーカーはリズムを打ち込みにしてみたりして手法で変化をつけていましたけど、ナンバーガールはバンドという枠のなかでどうやって自由度を高めていくかに挑戦しているような感じで、ずっと気になる存在で。だからひさ子ちゃんと何かやれるというのはすごく楽しみでした」(ナカコー、ヴォーカル/ギター)。

とはいえ、具体的に何をやるのかはまったくの白紙状態。最初に3人で会った時でさえもまだ〈動物に例えるなら犬でも猫でもないラマみたいな感じ〉くらいのイメージだったという。そこに、スーパーカーもナンバーガールもよく知らずに育ったという牛尾がジョインした。彼はフルカワのソロ活動に関わったことはあったものの、もちろんバンドというもの自体これが初体験。だが、着地点を求めずに作業を進めたからこそ偶発的な化学反応が生まれることとなった。

「昔からバンドものって聴いたことがなかったんです。ところが90年代後半にスーパーカーが4つ打ちの曲を作りはじめたって聞いて、〈クソッ〉って(笑)。(石野)卓球さんとかジョルジオ・モロダーとかばかり聴いていた内向的なオタクだったんで、許せなかったんでしょうね。最初、この4人が集まってどんなことになるんだろう?ってまったく想像がつかなかったんですけど、でもだからこそおもしろいんじゃないかって思えたんです。自分がここで何ができるのか?じゃなく、どうなっていくのか?ってことを楽しめる気がしたんですよ。昔からの友達には〈あんなにスーパーカーとか否定してたのに!〉って言われましたけど……まあ、時効ですよね(笑)」(牛尾憲輔、プログラミング)。

「もちろん打ち込みとかの専門的な知識もあるけど、それ以上に牛尾くんのいいところは考え方がしっかりしていたり、ユーモアとかが近いところ、あと人柄かな。結局はそういうところからおもしろいものが出来るんですよね」(フルカワ)。

4人が共有できるコンピューター上のサーバーにそれぞれが自由に素材をアップし、そこへ各々がギター、打ち込み、ヴォーカルなどを加えていく。曲作りはそうした形でスタートした。もちろん、ファースト・アルバム『New!』には、ナカコーとフルカワのツイン・ヴォーカルが初期スーパーカーを思い出させる“Spell”、メランコリックなメロディーと切れ味のあるビートがiLLを彷彿とさせる“Blind Mind”、田渕主動で作ったと思しきギター・ロック“Sil-ver Spring”、牛尾らしいバウンシーなエレクトロニカ・チューン“Soul Diving”など各人の個性が出た曲も多い。だが、実際は誰が主導権を取ることもなくフレキシブルに曲を転がして完成されたものだとか。

「〈4人集まってダブステップをやりました〉みたいな発想がいちばんやりたくなかった。ただ後ろにこの4人が見えるような音楽であればいい。ロックだからこうしよう、打ち込みだからこういうマナーで……みたいなのはまったくなかったし。僕自身は80年代のフランスのコールドウェイヴやダークウェイヴ系の音楽を聴いていましたね。あのあたりの連中ってドラムがないから打ち込みで……みたいな発想だったでしょ。だから音は冷たいけど、ふと温かい質感が出てきたりして。ああいうのをやってみたかったというのはありますね」(ナカコー)。

「私、結構ギターが単調になりがちなんですよ。でもそういうのを頭で考えないで、気がついたらおもしろいことをやれてた!みたいな楽しさはありました」(田渕)。

「異物感、違和感みたいなのがほんのりあるような場が欲しいなって思っていたところは確かにあります。そういうのを久しくやってなかったからなんでしょうね」(フルカワ)。

想定外の化学反応と言っても、赤と青と黄の分量を計算しながら混ぜたら透明になった、というような劇的なものではない。何も考えずにさまざまな色を重ねていたら何やらカラフルでハッピーな感じの色彩になっていた、というようなあくまで偶発的なもの。それこそがLAMA流の化学反応だったのだろう。

「アルバム全体のトーン?――うーん、どこかに幸福感があるという感じですね。すごく限定された空間のハッピーな日常、みたいなものを感じながら作業をしていたかもしれないです」(ナカコー)。

 

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掲載: 2011年11月23日 17:59

更新: 2011年11月23日 17:59

ソース: bounce 338号(2011年11月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野