インタビュー

LONG REVIEW――NICO Touches the Walls 『HUMANIA』



受け入れずにはいられないポピュラリティー



NICO Touches the Walls_J170

〈コンポーザー=(現役の)ヘヴィー・リスナー〉という図式は必ずしも成立しないし、どちらが良い/悪いという話ではないが、NICO Touches the Wallsの4人はあきらかに〈聴く側〉の人たちだ。そして、だからこそのこだわり――遊び心やオマージュと言ってもいいかもしれない――が細かく配されたサウンドについて、屈託なく語る彼らの取材は毎回おもしろい。さらに言うなら、回を重ねるごとにおもしろくなってきている。

それはつまり、作品の制作過程が(場合によっては〈ネタ〉とも言えるベタさを伴った)豊富なアイデアに満ちているということ。また、彼らにはそうしたアイデアをきっちりと音に落とし込むための基礎体力が備わっているということ。ライヴ三昧の日々を過ごした2010年を血肉化した3作目『PASSENGER』があったからこそのニュー・アルバム『HUMANIA』は、前作からたった8か月のスパンで驚異的な進化を遂げた傑作である。

とことんまで削ぎ落としたタフなグルーヴで聴き手の理性を浚った『PASSENGER』は、一方で〈ポップであること〉に対する彼らなりの試みがより自由度を増した作品でもあった。「マリアッチで“My Sharona”をやったらどうなるか?」といった制作の発端から、しまいにはSEのムチの音の素晴らしさを力説していた“ロデオ”に始まる全11曲。取材時の4人の発言からは、バンドが音楽的な禁じ手から徐々に解放されていることがありありと感じられたし、何より、彼らにはそうすることに対しての躊躇いがなかった。

そんな意識をさらに先へと押し進めた今作は、先行シングル“手をたたけ”を筆頭に、詞世界のみならずサウンド面においても大きく開かれた印象だ。ジャケの如く自身の人間性を骨まで晒して見せつつ、これまでのオーセンティックなギター・ロック路線からは良い意味で逸脱。シタール調のギター・リフを効かせた“バイシクル”、エレクトロ・ポップなテイストを滲ませた疾走チューン“カルーセル”、場末のキャバレー風情のジャズ歌謡“極東ID”、瑞々しいAORナンバー“恋をしよう”、ゴリゴリのヘヴィー・ロック“業々”……思いのままに広げていった音楽性が、強靭かつ柔軟なバンド・アンサンブルでひとつに束ねられている。さらには、その変化に驚きながらも、受け入れずにはいられないポピュラリティーがここにはある。

〈他者とより強く繋がりたい〉という4人の意思は、これまでの作品のなかでもっとも遠くまで伝播することになるだろう。それが単純に嬉しいし、次作の取材ではよりおもしろい話を聞かせてもらえるのではないかと、いまから勝手に想像したりしている。



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掲載: 2011年12月07日 18:01

更新: 2011年12月07日 18:01

文/土田真弓