インタビュー

INTERVIEW(3)――自然に対抗するための強い力



自然に対抗するための強い力





――震災によって言葉の持つ意味も大きく変わってきましたしね。

「そうなんですよね。例えば、“あなたは太陽”という曲に出てくる〈菜の花〉という単語一つ取ってみても、原発事故の後と前とではニュアンスが違うじゃないですか。菜の花やひまわりは放射能を除染してくれる花だ、みたいなふうに言われたりして。でも、原発事故以前は世間一般には誰もそんなふうには菜の花を見てなかったわけで」


――つまり、リリックは震災以降に書いたということですか?


「ほとんどそうです。書いていたものも再度書き直したりしました。〈がんばろう〉一つ取っても昔みたいに簡単には言えない状態になったことで、歌詞には本当に自覚的になりました。よりリアルであろうとするような感じで。もちろん、震災以降、自分のなかに確かなものとして残ったものもすごく多かったので、イチからやろうって気持ちにはなりましたね」


――言葉の意味合いが変わったことで、最終的に表現者としての目標も変化しました?


「う~ん、自分が見ている方向だったりやってきたことだったり考え方だったりが、なんて甘っちょろいんだ!って気付かされたんですけど、それほどは変わらないのかなあ。道筋や段階では変わったのかもしれないけど、最終的にはあまり変わってないような気もしますね……いや、う~ん、どうかなあ……」


――というのも、いままでのbonobosって、あくまでサウンド面において快楽的な側面がとても強かったわけだけど、今回はポップ・ミュージックとしてすごく凛々しく仕上がっているし、リリックもスケールが大きいのと同時に厳しさも含んでるように思えたんです。つまり、快楽性と一定の距離を置いているような感じ、というか。


「それはありますよね。楽しいという感情の厚みの奥のほうにもう何層も加わった感じですね。僕、実際に6月に仙台、小名浜、茨城など4か所くらいに行って歌ったりしたんです。その時、“ラヴ・イズ・オーヴァー”とかも歌ったりして地元のおじさんたちも喜んでくれたんですけど、特に小名浜は原発からも近いってこともあって、聴いてくれたみんなが相当張り詰めていてね。でも、歌い終わった後、みんなすごく喜んでくれたんです。昔のようには無邪気になれないにしても、やっぱり人間の力で押し返していく必要があるなと思ったんですよね。自然の力には抗えないとしても、人間の力で押し返さないとって。作り手として曲にするにせよ、一人の人間として生活するにせよ、昔はもう少し自然との調和を考えていたんです。でもいまはそうじゃなくて、極端に言うと、あきらかに〈敵〉として向き合う、それに対抗するための強い力をつけていくというような思いになりましたね」

――となると、逃避とかは考えなかったと。

「やっぱり生き方は考えましたね。僕、(出身の)関西も好きですけど、東京も大好きなんですよ。いま住んでる国立が好きでね。ただ、さすがに震災後は殺伐とした雰囲気になって、東京じゃなくてもいいのかな?って気は確かにしましたね。でも、結局のところ僕はここに残って作品を作りましたけど」

――だから、余計に宇宙とか銀河という、物理的にも遠い世界まで手を伸ばしたようなスケールの大きなリリックになったと言えるのでしょうか?

「それはあるかもしれないです。いつかは地球を元通りにしてあげなきゃいけないとも思いますからね。そのためにも僕らが自然と対峙した時に十分戦える強さを持たないといけない。そんなことを考えながら今回のアルバムを作りましたね」



カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2011年12月07日 18:00

更新: 2011年12月07日 18:00

インタヴュー・文/岡村詩野